いつもの時間
同じ頃。
王宮内に設けられた救護所では。
「……暇だ」
ベッドに横たわったログが、天井を見つめながら呟いた。
「暇なら寝てろ」
少し離れたベッドから、バルガスの声が飛んでくる。
「もう寝飽きましたよ」
「なら怪我治せ」
「気合いで治るなら、とっくに治してます」
「根性が足りねぇんだよ」
「怪我人に根性論やめてもらえます?」
「二人とも元気だねぇ……」
隣のベッドから、パイルが苦笑する。
「もう少し静かにしてくれると助かるかな」
「あ、すみません。寝てました?」
「寝ようとはしてたんだけどね」
「それは……すみません」
「いいよ。これだけ喋れるなら、ログくんも大丈夫そうだし」
「なんで俺が基準なんですか……」
「ははは」
ログが小さく息を吐く。
バルガス。
パイル。
そしてログ。
三人とも戦闘で負傷し、今は揃ってベッドの上だった。
一方。
「まったく……騒がしいな」
少し離れた椅子には、ロイドが座っている。
傷こそ負っているものの、他の三人と比べれば遥かに軽い。
そして――。
「…………」
その横では。
ほとんど傷らしい傷もないユノが、じっとバルガスを見ていた。
「……なんだよ」
「バルガス隊長」
「おう」
「僕、言いたいことがあるんですけど」
「奇遇だな。俺は聞きたくねぇ」
「聞いてください」
「嫌だ」
「聞いてください」
「…………」
ユノは笑っている。
いつもの柔らかな笑顔で。
「……ユノ、怒ってるね」
フィリアが小さく呟く。
「だな……」
ログも声を潜める。
ユノは笑顔のまま、バルガスのベッドへ近づいた。
「一人で無茶しすぎです」
「仕方ねぇだろ。あの状況じゃ――」
「それは分かってます」
「ならいいだろ」
「よくないです」
「…………」
「毒まで受けて、その身体で戦い続ける必要ありました?」
「……あった」
「へぇ」
「…………」
バルガスが目を逸らした。
「隊長」
「なんだよ」
「僕、ちゃんと帰ってきてくださいって言いましたよね?」
「帰ってきただろ」
「そういう意味じゃありません」
ユノの笑顔が消えた。
「死にかけて帰ってくることを、帰ってくるって言わないんですよ」
「…………」
バルガスが黙る。
「僕が見つけた時、どんな状態だったと思ってるんですか」
「……悪かったよ」
「聞こえません」
「悪かったって!」
「次からは?」
「気をつける」
「本当に?」
「……善処する」
「隊長?」
「分かった! 分かったからその顔やめろ!」
バルガスの声が救護所に響いた。
ユノはしばらくその顔を見つめる。
「……はい。ならいいです」
そして。
何事もなかったかのように、いつもの笑顔へ戻った。
「……怖ぇ」
ログが呟く。
「聞こえてますよ、ログ先輩」
「なんで俺まで怒られんだよ」
「ははは……」
パイルがベッドの上で笑う。
「でも、バルガス隊長。今回はユノくんに怒られても仕方ないんじゃないですか?」
「あぁ?」
バルガスがパイルを見る。
「パイル、お前までそっちにつくのかよ」
「いやぁ、俺も人のことは言えないんですけどね」
「分かってんなら言うな」
「ははは」
「つーか、お前も大概だろうが」
「……まぁ、そうですね」
パイルは自分の身体へ視線を落とす。
全身には治療の跡。
人の無茶を笑えるような姿ではない。
「お前も俺と同じ怪我人だろ」
「そうなんですよねぇ」
「パイルさんも怒られます?」
ログが聞く。
「どうだろうね」
パイルは少し考えてから。
「帰ったら、妻には怒られるかな」
「……あぁ」
バルガスが納得したように頷く。
「そりゃ怒られるな」
「ですよねぇ」
「ダッハハ! 俺より怖ぇかもな!」
「笑い事じゃないですよ」
そう言いながらも、パイルは困ったように笑っていた。
フィリアも。
ログも。
ロイドも。
つられるように笑う。
「…………」
ユノだけが、再びバルガスを見た。
「……なんだよ」
「別に?」
「その目やめろ!」
また。
救護所に笑い声が響く。
傷はまだ癒えていない。
戦いの跡も、消えてはいない。
それでも。
ようやく彼らにも。
いつもの時間が戻り始めていた。




