いい友達
「父上」
ガオンがスカーを見る。
「これから……大変になりますね」
「他人事のように言うな。お前にも働いてもらうぞ」
「もちろんです。そのつもりです」
「ならいい」
スカーは短く答えると、ふと思い出したように続けた。
「それと、ガオン」
「はい?」
「ガイストへの留学だが――再開して構わん」
「……いいんですか?」
思わぬ言葉に、ガオンの目が僅かに見開かれる。
「あぁ。そもそも、ヴォルグの件でお前を呼び戻したのは、俺の意思ではなかったからな」
「…………」
「勝手に国を抜け出し、ヴォルグへ潜り込んだ件については言いたいことが山ほどあるが」
「……それは、申し訳ありませんでした」
「本当に分かっているのか?」
「……はい」
僅かに間があった。
スカーはそれを見逃さなかったが、今は追及せずに息を吐く。
「まぁいい。今回の件で、お前の留学まで止めるつもりはない。国が落ち着いたらガイストへ戻れ」
「……ありがとうございます、父上」
「あぁ」
そこでスカーは、アルトとレテへ目を向けた。
さらに、その向こうにいる者たちを思い浮かべるように目を細める。
「それに、ガオン」
「はい」
「……いい友を持ったな」
「…………」
ガオンもまた、アルトたちへ視線を向ける。
そして。
「はい……!」
力強く頷いた。
「……ガオン」
「はい?」
「少しこっちへ来い」
「?」
ガオンが不思議そうに近づく。
スカーは息子の肩を引き寄せると、周囲には聞こえないよう耳元へ顔を寄せた。
「……それと、ログだったか?」
「はい」
「ナーラを庇って戦っていた男だ」
「ログがどうかしましたか?」
「本当にいい男なら――今のうちにナーラへ売り込んでおけ」
「…………」
ガオンの動きが止まった。
ゆっくりと。
ナーラへ視線を向ける。
「……?」
その視線に気づいたナーラが眉を寄せた。
「なんだよ」
「……いえ。なんでもありません」
「なら見るな」
「はい……」
ガオンはそっとスカーへ向き直る。
今度は自分から声を潜めた。
「……父上」
「なんだ」
「それ、俺にやらせるんですか?」
「弟だろう」
「そういう問題ではないでしょう……」
「俺が言えばナーラが怒る」
「俺が言っても怒りますよ」
「なら任せた」
「ちょっ、父上……!」
「なんだ、ガオン」
ナーラが怪訝そうに二人を見る。
「さっきから何話してんだよ」
「…………」
「…………」
父と息子は顔を見合わせた。
「なんでもない」
「なんでもありません」
「……怪しいな、二人とも」
ナーラが目を細める。
その視線から逃れるように、ガオンはそっと顔を逸らした。
先ほどまで張り詰めていた広間に。
いつの間にか、穏やかな空気が戻っていた。




