過ち
「……処分を言い渡す」
スカーの一言で、広間に再び緊張が走った。
「まず、ガルド」
「……はい」
「お前は家族と一族の命を盾に脅され、ナーラを連れてくるよう命じられた」
「…………」
「事情は分かった。だが、お前が実際にナーラを襲ったことまで消えるわけではない」
「……分かっています」
ガルドは静かに頷いた。
「処分は後日、一族の被害状況も確認した上で決める。それまでは拘束を続ける」
「……はい」
「リシェル」
「はい」
「お前は《癒憩》によって、ガオンが反乱を企て、ナーラやジルまで殺そうとしていると認識させられていた」
「……はい」
「お前自身に反逆の意思がなかったことは認める。だが、実際にガオンたちと戦ったことまで無かったことにはできん」
「承知しております」
「ネレスも同じだ」
「はい」
「存在しない王命に従わされたとはいえ、兵糧を処分し、ガオンを殺そうとしていた」
「……はい」
スカーの視線が隣へ移る。
「ラバタ」
「ガニ」
「お前もだ。《癒憩》の影響と、一族を盾に脅されていたことは考慮する」
「……分かったガニ」
「それとは別に、カルキスが抱えている問題については後で話を聞く。タスマン」
「カニ」
「お前もだぞ」
「承知したカニ」
ラバタがちらりと父を見る。
タスマンは腕を組んだまま、僅かに頷いただけだった。
「セヴェル」
「はい」
「お前についても、俺に毒を盛ったという事実だけを見て処分するつもりはない。《癒憩》の影響と、セトが何をしていたのか。それらを全て調べてから決める」
「……はい」
そして。
スカーの視線が最後の一人へ向いた。
「リアス」
「おう!」
「お前は決定済みだ!」
「なんで俺だけ⁉︎」
「理由が馬鹿すぎて調べることがないからだ!」
「そんな理由あるか⁉︎」
「ある!」
リアスが愕然とする。
「……くそ。俺も何かに騙されたことに――」
「今から嘘をついたら期間を延ばすぞ」
「…………」
リアスはすぐに口を閉じた。
「馬鹿だろ、こいつ」
ナーラが呆れたように呟く。
「うるせぇ!」
「静かにしろ!」
二人まとめてスカーに怒鳴られ、広間が静かになる。
「……まったく」
スカーは額を押さえ、大きく息を吐いた。
だが。
次に顔を上げた時には、その表情から呆れは消えていた。
「これで終わりではない」
低い声が広間に響く。
「むしろ、厄介なのはここからだ」
「……国民への説明か」
ガオンが呟く。
「あぁ」
スカーは頷いた。
「これだけの騒ぎだ。王宮が襲われ、街でも戦闘が起きた。建物も壊れ、怪我人も大勢出ている」
隠せるはずがない。
そして。
隠して終わらせていいことでもない。
「全部話すのか?」
ガオンの問いに、スカーはしばらく黙った。
「……話す」
「父上?」
「レピオスのこともだ」
「…………」
セヴェルが顔を上げる。
「レピオス族が何故滅ぼされたのか。それを伏せて今回の騒動だけを話せば、セブランはただ国を恨んで反乱を起こした男になる」
「……違う」
アルトが小さく呟いた。
スカーがアルトを見る。
「セブランさんがやったことは……良くないと思う」
「あぁ」
「たくさんの人を巻き込んだし……俺も、あの人を止めた」
アルトは膝の上で拳を握る。
「でも……何も理由がなかったわけじゃない」
「…………」
「自分の一族を滅ぼされて……ずっと、それを背負ってた」
セブランが最後に見せた顔が、脳裏を過る。
「それなのに全部隠して……『悪い奴がクーデターを起こしました』で終わらせるのは、なんか違うと思う」
スカーは黙ってアルトを見つめる。
やがて。
「……そうだな」
短く答えた。
「俺もそう思う」
スカーはゆっくりと立ち上がった。
「隠すだけなら簡単だ」
皆の視線が集まる。
「死んだセブランに全て押しつければいい。奴が国を恨み、部族を操り、反乱を起こした。それで話は終わる」
だが。
「そんな終わらせ方をすれば、また同じことが起きる」
「…………」
「レピオスを滅ぼしたのは、この国だ」
セヴェルの目が僅かに見開かれる。
「昔の王が何を求めたのか。レピオスが何を答え、その結果、何が起きたのか」
スカーは一人一人を見渡す。
「調べられる限り調べる。そして、国民に伝える」
「スカー王……」
「今回の騒動に加わった者たちについても同じだ」
スカーの視線が、拘束された者たちへ向く。
「全員が自ら望んで国を裏切ったわけではない。《癒憩》によって認識を変えられた者もいれば、一族や家族を盾に脅された者もいる」
「…………」
「罪があるなら、その罪は背負わせる」
スカーの声が広間へ響く。
「だが、無い罪まで背負わせるつもりはない」
そして。
スカーは一度、目を閉じた。
「まずは――」
再び目を開く。
「この国が、自分たちの過去を認めるところからだ」




