決断
「……スカー王」
沈黙を破ったのは、セヴェルだった。
「何だ」
「先ほど申し上げたことを……」
「お前が罪を償うという話か」
「はい」
セヴェルはまっすぐスカーを見る。
「父は自らの意思で、この騒動に加わりました。セブラン兄さんも……自らの意思で復讐を選んだ」
一度、言葉を切る。
「ですが、スコルネ族の者たちは違います」
「…………」
「今回のことを知らなかった者も大勢います。父と兄の罪を、一族全ての罪にはしないでいただきたいのです」
セヴェルは深く頭を下げた。
「その代わり……私が償います」
「セヴェル」
「どのような処分でも受け入れます。医師としての立場を失っても構いません。ですから――」
「頭を上げろ」
「…………」
「聞こえなかったか。頭を上げろ」
「……はい」
セヴェルがゆっくりと顔を上げる。
スカーはしばらくその顔を見つめた。
「一つ聞く」
「はい」
「お前は俺を殺そうとしたのか?」
「…………」
セヴェルの表情が強張った。
「私は……」
「お前は俺に毒を盛った」
「……はい」
「何度もな」
「はい」
「だが、その時のお前には……あれが毒に見えていたのか?」
「…………いいえ」
セヴェルは首を横に振る。
「薬でした」
「…………」
「少なくとも、私にはそう見えていました」
医師として何度も確認した。
薬の色も。
匂いも。
量も。
何一つ、おかしいとは思わなかった。
「父から渡された薬を、私はスカー王の治療薬だと認識していました」
「それが毒だった」
「……はい」
セヴェルの拳が震える。
「医師でありながら……私は自分の手で、あなたに毒を投与し続けました」
「でも、それも《癒憩》だったんだろ?」
アルトが口を挟む。
セヴェルがアルトを見る。
「……そうなのでしょう」
「だったらセヴェルさんが――」
「それでもです」
静かな声だった。
「私は医師です」
「…………」
「患者の身体へ入れる物を選び、その安全を確かめる。それは私の責任です」
アルトは何も言えなくなる。
「見えていた物が違ったとしても。認識そのものを変えられていたとしても……私の手で投与したという事実まで消えるわけではありません」
「…………」
スカーは黙ってセヴェルを見つめる。
やがて。
「……お前は頑固だな」
「申し訳ありません」
「褒めてないぞ」
「はい」
「そこは素直なのか」
スカーが小さく息を吐く。
「だがな、セヴェル」
「はい」
「お前一人に全部背負わせるつもりもない」
「……ですが」
「黙って聞け」
「…………はい」
「セトにはセトの罪がある。セブランにはセブランの罪がある。そして、お前がしたことについては……お前自身の事情を含めて俺が判断する」
スカーの視線が、拘束された者たちへ向く。
「ガルドも、リシェルも、ネレスも、ラバタも同じだ」
脅された者。
存在しない事実を、事実だと認識させられた者。
そして――。
「……一人だけ、何も考えず暴れた馬鹿もいるが」
「俺か?」
「お前以外に誰がいる!」
「いてぇ!」
リアスの頭を、隣からナーラが叩いた。
再び騒がしくなりかけた広間を、スカーの声が制する。
「とにかくだ!」
一同が静まる。
「誰か一人に全てを押しつけて終わりにはせん」
そしてスカーは、セヴェルを見る。
「スコルネ族についてもだ。一族だからという理由だけで罰するつもりはない」
「……!」
「ただし、今回の騒動にどこまで関与していたかは調べる。それからだ」
「……ありがとうございます」
セヴェルが深く頭を下げた。
「まだ礼を言うな。何も決めておらん」
「はい」
スカーは椅子の背へ身体を預けると、大きく息を吐いた。
「……これで、一通り聞いたな」
その言葉に。
広間の空気が、僅かに変わった。
理由は分かった。
だが――。
これで終わりではない。
むしろ、ここからだった。
この騒動を起こした者たちをどう裁くのか。
そして。
ルミナスの民へ、この国で何が起きていたのかをどう伝えるのか。
王として。
スカーが決断しなければならなかった。




