↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
469/473

それぞれの経緯

     ◇◇◇


 王宮周辺 市街区広間。


 そこには既に、今回のクーデターに関わった者たちが集められていた。


 ガルド、リアス、リシェル、ネレス・ピシエル、そしてラバタ。


 全員の腕には力を封じる拘束具が嵌められ、そこから伸びた鎖で繋がれている。


 少し離れた場所にはセヴェルの姿もあった。


 拘束こそされていない。だが、セブランの計画に関わった者として、自らこの場に立っている。


「おぉ、来たかアルト。すまないな」


 広間へ入ってきたアルトたちに、スカーが声をかけた。


「ガオン。そちらの女性は?」


「レテ・オーズィラ。ガイストの精霊術師です。リシェルと戦闘をしたため、連れてきました」


「なるほど」


 スカーの視線がレテへ向く。


「ルミナスの騒動に巻き込んでしまったようだな。協力に感謝する」


「いえ。私も、何が起きていたのか知りたいです」


 レテが小さく頭を下げる。


 その時、横から視線を感じた。


「…………」


 リシェルだった。


 目が合った瞬間、その身体が僅かに強張る。


「……あなた」


「……」


 レテにも、彼女と戦った記憶は残っている。


 だが、その一部にはまだ靄がかかったような曖昧さがあった。


 リシェルは何かを言おうとしたが、唇を噛み、そのまま俯いてしまう。


「話は後だ」


 スカーの声が響き、広間の空気が引き締まった。


「まず確認しなければならんことがある。ここにいる者たちが、何故今回の騒動に加わったのか。何を見て、何を聞き、何を理由に行動したのか」


 スカーは拘束された者たちを一人ずつ見渡し、最後にセヴェルへ目を向ける。


「全て聞いた上で、処分を決める」


 最初にスカーが見たのはガルドだった。


「まずはガルド。何故、今回の騒動に加わった」


「……脅されたからです」


「脅された?」


「親父とお袋。それに、タウルスの仲間達……全員に毒を盛ったと、そう言われました」


 ガルドの拳に力が入る。


「ナーラ様を連れてくれば解毒剤を渡す。従わなければ……いつ毒が命を奪うか分からない、と」


「それで俺を狙ったってわけか」


 ナーラが口を挟む。


「……申し訳ありません」


「謝るのは後でいい。まず全部話せ」


「……はい」


 スカーが続ける。


「お前を脅したのは誰だ」


「分かりません。俺に毒を見せたのは……知らない奴でした」


「セトではないのか?」


「違います」


 ガルドは迷わず否定した。


「スコルネの毒だからといって、スコルネ族がやったとは限りません。それに……セト族長が、そんなやり方をするとは思えなかった」


 その言葉に、セヴェルが僅かに目を伏せる。


「ですが……一族の命が懸かっていると言われて、無視することはできませんでした」


「……分かった」


 スカーはそれ以上追及せず、次へ視線を移した。


「リシェル」


「……はい」


 名前を呼ばれ、リシェルが顔を上げる。


「お前はどうだ」


「私は……ガオン王子がクーデターを起こそうとしていると思っていました」


「俺が?」


 ガオンが眉を寄せる。


「はい」


 リシェルは苦しそうに頷いた。


「黒い服を着た男から話を聞きました。ガオン王子が王位を奪うために反乱を起こした。ナーラ様を殺そうとしている……そう聞かされて」


「それを信じたのか?」


「……いえ」


 リシェルは一度言葉を止めた。


「信じた、という感覚ではなかったんです」


 スカーの目が細くなる。


「どういうことだ?」


「疑うという考えが……浮かびませんでした。あの男から話を聞いた時から、それが事実だと……最初から知っていたことのように感じていたんです」


「…………」


「その後、私はガオン王子を見つけました。ジル様と一緒にいるところを」


 リシェルの指先が震える。


「ですが……私には、ガオン王子がジル様を殺そうとしているように見えた」


「俺が……ジルを?」


「はい」


 ガオンが絶句する。


 リシェルは俯いたまま続けた。


「だから止めなければと思いました。ナーラ様を殺そうとして、今度はジル様まで……そう思って」


 そして、強く唇を噛む。


「ガオン王子は言っていたんです。『俺は国を裏切らない』と。それなのに私は……その言葉すら信じられなかった」


 広間が静まり返る。


「全部……本当だと思っていました。ガオン王子が裏切ったことも、ナーラ様を殺そうとしていたことも……ジル様に危害を加えようとしていたことも」


「……それが《誤認》…いや、《癒憩》だと思う」


 アルトが口を開いた。


 全員の視線が車椅子の少年へ集まる。


「セブランの力は、ただ嘘を信じ込ませるだけじゃない」


 アルトは包帯に覆われた腕を見下ろした。


「俺もやられたから分かる。見えてるものも、感じてることも……自分の中じゃ本当になるんだ」


 死んでいないのに、自分は死んだと思った。


 動くはずの腕が、動かないと思い込んだだけで動かなくなった。


 セブランの《癒憩》。


 彼自身が《誤認》と呼んでいた力。


「だからその人は、嘘だって分かっててガオンを襲ったわけじゃない。本当にそう見えてたんだと思う」


「…………」


 リシェルは何も答えなかった。


 ただ、自分の手を見つめる。


「でも……」


 震える声が漏れた。


「それでも、私がしたことは……」


「リシェルさん」


 レテが彼女の名を呼んだ。


「……!」


 リシェルが顔を上げる。


「私と戦ったことは、覚えていますか?」


「……少しだけ」


 リシェルは恐る恐るレテを見る。


「全部じゃない。ところどころ抜けています。でも……」


 その視線が、レテの肩や腕に残る傷へ落ちた。


「その傷をつけたのが私だということは……分かります」


「…………」


「ごめんなさい」


 リシェルが深く頭を下げた。


「何を見ていたとしても、何を信じていたとしても……あなたを傷つけたのは私です」


 レテはしばらく彼女を見つめていた。


「……顔を上げてください」


 リシェルがゆっくりと顔を上げる。


「私も、まだ全部は思い出せていません」


「え……」


「だから今すぐ、あの時のことを全て話すことはできません。でも……」


 レテは真っ直ぐにリシェルを見る。


「あなたが私を傷つけたかったわけではないことは、分かります」


「…………」


 リシェルの瞳が揺れる。


 スカーは二人のやり取りを見届けると、静かに息を吐いた。


「……同じ騒動に加わった者でも、そこに至った経緯はまるで違うということか」


 脅迫によって従わされた者。


 自分の目で見たものさえ歪められた者。


 そして、この場にはまだ証言していない者たちがいる。


 スカーは次の者へ視線を移した。


「……続けよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。