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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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同じ真実②

 救護所の奥。


 アルトは簡素な寝台に腰掛け、俯いたまま動かなかった。


 身体には治療が施されている。だが、傷そのものよりも、その表情に残るものの方が重かった。


「アルト」


「……っ」


 ガオンに名前を呼ばれ、アルトの肩がびくりと跳ねる。


 ゆっくり顔を上げると、ガオンの後ろにはスカー、バルガス、セヴェルが立っていた。


「あぁ……みんな……」


「話せるか。アルトとやら」


 スカーの問いに、アルトは少しだけ間を置いて頷いた。


「……はい」


「無理に立たなくていい。そのままでいろ」


 スカーは近くの椅子を引き寄せ、アルトの前へ腰を下ろす。ガオンたちもその周囲に集まった。


「まずは礼を言わせてくれ。ガオンから話は聞いた。お前たちがこの国へ来なければ、俺たちは今も互いを敵だと思ったまま殺し合っていたかもしれん」


「…………」


「ありがとう」


「……俺は」


 アルトの視線が再び落ちる。


「俺……何も……」


「アルト」


 ガオンが声をかけるが、アルトは首を横に振った。


「セブランさん……死んじゃったから……」


 その名が出た瞬間、セヴェルの表情が僅かに曇った。


「俺が……あんな技使わなかったら……あそこ、崩れなかったかもしれない」


「…………」


「セブランさん、俺たちを庇って……それで……」


 アルトの声が掠れる。


「俺のせいで……」


「違います」


 静かに遮ったのは、セヴェルだった。


 アルトが顔を上げる。


「でも……」


「兄さんは自分で選んだんです」


「…………」


「あなたを責めるつもりはありません。少なくとも私は」


 セヴェルは膝の上で拳を握った。


「父も……兄さんも。最後に何をしたのかは、自分で決めたことですから」


 その言葉に、バルガスが僅かに目を伏せる。


「……セヴェル」


「はい」


「さっき、俺と話がしたいって言ってたな」


「……えぇ」


 バルガスはしばらく黙った後、真っ直ぐセヴェルを見た。


「セトの最期を話す」


「…………お願いします」


「俺とあの男は戦った。最初は本気で殺し合ってたよ」


 バルガスはゆっくりと話し始めた。


「だが最後……あの男は俺に毒を打つと見せかけて、解毒剤を打った」


 セヴェルの目が僅かに見開かれる。


「……解毒剤?」


「あぁ。それで俺に『先に行け』って言いやがった」


 バルガスは拳を握った。


「俺は……止められなかった」


「…………」


「最後に自分で腹を貫いてな」


 セヴェルの唇が僅かに震える。


 バルガスは目を逸らさなかった。


「最期に言ってたよ」


 一度、息を吐く。


「『セヴェル……すまない……な』って」


「…………」


 セヴェルは俯いた。


「……そう、ですか」


 それ以上の言葉は、すぐには出てこなかった。


 静かな時間が流れる。


「……兄さんも」


 やがてセヴェルが口を開いた。


「最後まで……父のことを」


「セブランは何と言っていた?」


 スカーが尋ねる。


「……帰っていいのか、と」


「帰る?」


「はい」


 セヴェルは小さく頷く。


「兄さんはずっと、自分には帰る場所がないと思っていました。父に追い出され、自分の一族も滅ぼされていた。だから私は……帰ってきてほしかったと伝えました」


 そして。


「最後に兄さんは……『ようやく俺にも故郷が』と」


「…………」


 スカーは目を閉じた。


 アルトも俯いたまま、唇を噛む。


「……セブランさん」


「アルト」


 今度はスカーが呼んだ。


「お前はあの男と、最後に戦ったんだな」


「……はい」


「なら聞かせてくれ」


 スカーの目が真剣なものへ変わる。


「セブラン・レピオスは――何を望んでいた?」


 アルトはすぐには答えなかった。


 戦っている時に聞いた言葉。


 怒鳴り声。


 憎しみ。


 そして最後に見た、あの人の顔。


「……分かりません」


 アルトは小さく答えた。


「俺、セブランさんのこと……全部知ってるわけじゃないから」


 スカーは黙って続きを待つ。


「でも……」


 アルトはゆっくり顔を上げた。


「医者に……なりたかったんだと思います」


 セヴェルが目を見開く。


「ずっと……医者でいたかったんだと思う」


 それだけは。


 アルトにも、そう思えた。

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