同じ真実
「お前たち、静かにしろ!」
救護所にスカーの声が響いた。
「ナーラはしっかり休め! セヴェル、頼んだぞ」
「はい」
「父上、私は――」
「休め」
「……はい」
ナーラが渋々引き下がるのを確認すると、スカーはガオンへ目を向けた。
「ガオン。来い」
「はぁ……」
ガオンが父のそばへ行くと、スカーはちらりとログを見る。
「あの男は、お前の知り合いか?」
「ガイストで同じ部隊です」
「そうか……」
「中々のやつですよ」
「…………」
スカーの口元が僅かに吊り上がった。
「……なんです?」
「いや?」
妙に楽しそうな父の顔にガオンは眉を寄せる。
スカーは一つ咳払いをした。
「ごほん。それはそうと、何が起きたのか説明しろ」
「……分かりました」
ガオンはこれまでのことを話し始めた。
ヴォルグへ無断で侵入したことでルミナスへ呼び戻されたこと。帰国してから父に会えない日々が続いたこと。ナーラと共に異変を追い、やがて自分がクーデターを企てているという話まで広がっていたこと。
そして、セブラン・レピオス。
その男によって多くの者の認識が歪められ、自分たちが互いを敵だと思い込まされていたこと。
アルトたちガイストの仲間がルミナスへ来たこと。
ラバタとの戦い。
父スカーとの戦い。
地下で起きたことを含め、今に至るまでをガオンは順を追って話した。
「……なるほどな」
全てを聞き終えたスカーは腕を組む。
「ヴォルグの件は、後でしっかり話を聞くとして……そうか。クーデターか」
「俺はやってませんからね?」
「分かっている。今はな」
「今はってなんですか……」
スカーはガオンの抗議を流し、少し考え込んだ。
「お前が背負っていた……アルトという青年だったな。そいつは話せる状態か?」
「確か、奥にいます」
「話したい。案内しろ」
「分かりました。ただ……」
ガオンはナーラの治療をしているセヴェルを見る。
「セヴェルも一緒がいいでしょう。セブランのことを話すなら、その方がいい」
「……あぁ。そうだな」
「その話、俺も入れてくれませんかね?」
横から声が飛んできた。
振り返ると、バルガスが立っていた。
「……どうでしょう?」
ガオンが父を見る。
「いいだろう」
「ありがとうございます」
バルガスは短く頭を下げた後、少し間を置いてスカーを見る。
「……セトってのは、どんな奴でした?」
「セトか」
スカーの表情が僅かに和らいだ。
「優秀な奴でな。配下でもあり……友人でもあった」
「……そうですかい」
バルガスはそれだけ答え、視線を落とした。
自分との戦いの末、セトは死んだ。
その事実が消えることはない。
「道すがら話は聞いた」
スカーが静かに言う。
「お前が気負う必要はないぞ」
「…………」
「セトが最後に何を選んだのか。それまでお前が背負うことじゃない」
「……はい」
いつもの豪快さはなく、バルガスは小さく頷いた。
「スカー様」
治療を終えたセヴェルがこちらへ歩いてきた。
「ナーラ様は少し落ち着きました」
「そうか。ご苦労だった」
「いえ……」
セヴェルはそこでバルガスを見る。
「バルガスさん。少し話がしたい」
「あぁ。俺もだ」
二人の間に僅かな沈黙が落ちた。
セヴェルにとって、目の前にいるのは父と最後に戦った男。
バルガスにとっても、セヴェルはセトが最期まで気にかけていた息子だった。
「まぁ待て」
スカーが二人の間に入る。
「どうせなら、まとめて話した方がいいだろう。アルトとかいう青年も交えて話すぞ。いいな?」
「俺はいいですが……」
「私も構いません」
「決まりだな。ガオン、案内しろ」
「はい」
ガオンは救護所の奥へ目を向けた。
そこには今も、戦いの傷を負ったアルトがいる。
そして。
これから話さなければならないのは、単に何が起きたのかだけではない。
セブランが何をし。
セトが何を選び。
この国で三百年前から続いてきたものが、何を引き起こしたのか。
ようやく全員が、同じ事実を前にして話す時が来た。




