再会
救護所が見えてきた、その時だった。
背後から、腹の底まで響くような轟音が鳴り響いた。
「……っ!」
ナーラたちが振り返る。
王宮の一角が崩れ、大量の土煙が空へ噴き上がっていた。タスマンの硬化によって崩壊は途中で止まっているものの、その光景を見たジルの顔が一気に青ざめる。
「おにぃたま……パパ上……」
「ジル?」
「おにぃたま! パパ上!」
「あっ、おい! ジル!」
ナーラが止めるより早く、ジルは手を振りほどいて救護所へ走り出した。
小さな足を懸命に動かし、何度も転びそうになりながら走る。
そして救護所の近くまで来たところで、角から出てきた人影へ勢いよくぶつかった。
「きゃ!」
「ジル!」
倒れかけた身体を、大きな腕が咄嗟に抱き留める。
聞き覚えのある声。
ジルがゆっくりと顔を上げた。
「……おにぃたま」
そこにいたのは、全身傷だらけのガオンだった。
「今から迎えに行こうと――」
「うぇぇぇん! ふぇぇぇん!」
「……っ」
ジルは堪えていたものが切れたように泣き出し、その胸へ飛び込んだ。
「おにぃたま! おにぃたまぁ!」
「……ごめんな。怖かったな」
ガオンはその場にしゃがみ、震える小さな身体をしっかりと抱き締める。
「ガオン!」
そこへナーラとウィラが追いついた。
「姉上! ご無事で――ぎっ!」
ゴンッ!
挨拶より先に、ナーラの拳がガオンの頭へ落ちた。
「テメェ……ジルとウィラを抱えて飛び降りたらしいじゃねぇか……」
「ウィラ? いや、あれは仕方な――ごっふ!」
続けざまに腹へ拳がめり込む。
「ジルの侍女だ! 危ないことしやがって!」
「だから……あの時は他に方法が……」
「言い訳すんな!」
ナーラは怒鳴りつけると、大きく息を吐いた。
「……父上は?」
「ぐっ……父上なら向こうに――いっ!」
今度は頭を鷲掴みにされ、ガオンが顔をしかめる。
だが、ナーラはもう怒っていなかった。
「……よく生き残った」
「…………」
「無茶ばっかしやがって……」
ガオンは一瞬だけ目を見開いた後、小さく笑う。
「……姉上こそ」
「当たり前だ。誰に言ってんだ」
ナーラはガオンの頭から手を離した。
「パパ上は……?」
まだ涙の止まらないジルが尋ねる。
「あぁ。一緒に行こう」
「うん!」
ガオンがジルの手を取り、救護所へ入っていく。
すると、ジルはすぐにその姿を見つけた。
「パパ上!」
「おぉ! ジル!」
ジルが手を振りほどき、再び駆け出す。
スカーは両腕を広げ、その小さな身体を勢いよく抱き留めた。
「あぁ、可愛いジル! 無事だったか!」
「パパ上……!」
ジルはスカーの胸へしがみつき、しばらく離れなかった。
やがて顔を上げると、痩せ細った父の頬へ小さな手を伸ばす。
「パパ上……病気治った……?」
「はっはは! ジルを抱きしめたらすぐ治ったぞ!」
「ほんと⁉︎」
「あぁ、本当だとも!」
スカーは豪快に笑い、もう一度ジルを抱き締めた。
その様子を見ながら、ナーラがゆっくりと近づいていく。
「じゃあ、俺を抱きしめたらどうなるんだい? 父上」
「ナ、ナーラ……」
スカーの顔が僅かに引きつった。
「いや、お前に抱きつかれたら壊れ――ぐおっ⁉︎」
言い終えるより早く、ナーラがその胸へ飛び込んだ。
「……こんなに痩せちまって」
「ナーラ……?」
服を掴む手に力が入る。
「母上がいなくなって……父上までいなくなったら……俺……うぅぅ……」
「…………」
スカーはしばらく何も言わなかった。
ただ、泣き出した娘の頭を大きな手で優しく撫でる。
「……心配かけたな」
「……バカ親父」
「あぁ。悪かった」
少し離れたところで、ガオンは黙って二人を見つめていた。
やがてナーラが離れると、スカーは表情を引き締める。
「さて……二人とも。これまでのことと、これからのことを話さなければならん」
「……あぁ。王宮内はタスマンが硬化させた。簡単には崩れないだろう。それと――」
不意に、ナーラの身体がふらついた。
「……⁉︎」
「ナーラ‼︎」
スカーが咄嗟に身体を支える。
「くっそ……毒のこと忘れてた……」
「おねぇたま!」
ジルの顔が青ざめる。
「失礼します。解毒剤です」
すぐにセヴェルが駆け寄り、薬を差し出した。
「セヴェル……助かった……」
「ナーラ様、向こうで横になっていてください」
「でも……」
「セヴェルの言うことを聞け。ナーラ」
「……はい」
スカーに言われては逆らえず、ナーラはセヴェルに付き添われて負傷者用の寝床へ向かった。
「こちらで休んでください」
「あぁ……」
横になろうとしたナーラが、何気なく隣へ目を向ける。
「…………」
「あぁ……姫様」
「なっ……ロ、ロ、ロ、ロ、ログ⁉︎」
そこには、全身傷だらけで横になっているログがいた。
「ご無事でよかった」
「あ、あ、あぁ! お、お前は! 大丈夫か……?」
「姫様が運んでくれたおかげで、なんとか」
「そ、そうか……」
途端にナーラの視線が泳ぎ始める。
そんな二人を見ながら、セヴェルがログの状態を確認していたが、ふと服へ目を落とした。
「ログさん、服がびしょ濡れですが」
「え?」
「…………」
ナーラの顔が固まる。
(……俺の汗じゃね?)
ログを背負って必死に走り回った時のことが脳裏をよぎった。
「そっ! それ! はや! 早く脱げー!」
「え⁉︎ ちょ、姫様!」
ナーラが慌ててログの服へ手を伸ばす。
「早く脱げ! 風邪引くだろ!」
「自分で脱げるから! ちょっと待ってください!」
「いいから早くしろ!」
「怪我人なんですって!」
その騒ぎを少し離れた場所から眺めていたガオンが、何とも言えない顔で姉を見る。
(姉上……まさか……)
「……ガオン」
「はい」
いつの間にか、ナーラがこちらを睨んでいた。
「今、なんか変なこと考えたか?」
「……いえ。何も」
「ならその顔やめろ!」
「何も言ってないでしょう⁉︎」




