ティア
◇◇◇
「おねぇたま!」
「ジル!」
建物へ駆け込んだナーラの胸へ、ジルが勢いよく飛び込んできた。
「おねぇたま! おねぇたま!」
「あぁ……よかった」
ナーラは小さな身体を強く抱き締める。ちゃんと温かい。そのことを確かめるようにしばらく離さず、やがて乱暴に目元を拭った。
「怪我は?」
「ないよ!」
「そうか」
少し離れた場所では、ウェラがほっとしたように頭を下げている。
「ナーラ様……ご無事で」
「ウェラもな。ジルを守ってくれてありがとよ」
「いえ……私は……」
ウェラは何かを言いかけたが、ナーラはそれ以上聞かなかった。
「ここもいつまでも安全とは限らねぇ。救護所に向かうぞ」
「はい」
ナーラはジルの手を取り、ウェラと共に建物を後にした。
◇◇◇
「あれ? さっきの子だ!」
救護所へ向かう途中、不意に明るい声が聞こえた。
ナーラが振り返ると、一人の女がこちらへ駆け寄ってきている。
「よかったー。怪我とかしてない?」
その視線はジルへ向いていた。まるで知り合いにでも会ったような口調だった。
「……止まれ」
「え?」
女の足が止まる。
ナーラはジルを背へ庇うように一歩前へ出た。
「悪りぃが……俺は今、気が立ってる。不用意に近づくな」
それ以上、ナーラは何も言わなかった。
だが。
近づけば殺す。
その目が、はっきりとそう告げていた。
「うわぁ……おねぇさん、相当強いね……」
女は少し目を丸くする。
「テメェは誰だ」
「あーし?」
女は自分を指差し、少し考えるように首を傾げた。
「……まぁ、女の子になら教えてもいいかな。あーしの名前はティア!」
「ティア……。どこから来た? 一人か?」
「ううん! 三人! カンポスとトンキー!」
「……誰だそいつら」
「どこから来たかって言うとね――」
その時。
ざわりと周囲の木々が揺れた。
「お嬢様」
「わっ⁉︎」
いつの間にか、ティアのすぐ後ろに一人の男が立っている。
「呼び出しておいて放置はあんまりです。カンポス様もお待ちです」
「トンキー! わわっ、ごめんごめん!」
ティアは慌てて振り返ると、そのままナーラたちへ手を振った。
「じゃね! おねぇさん! 君もバイバイ!」
「待て。まだ話は――」
ざぁっ――。
木の葉が一斉に舞い上がる。
ナーラが目を細めた次の瞬間には、ティアとトンキーの姿は消えていた。
「…………なんだ、あいつら」
「おねぇたま?」
「……いや、なんでもねぇ」
ナーラはしばらく二人がいた場所を睨んでいたが、やがてジルへ視線を戻した。
何者なのか。
どこから来たのか。
なぜジルを知っていたのか。
聞きたいことはいくらでもある。
「今はいい。行くぞ、ジル」
「うん!」
「ウェラも遅れんなよ」
「はい」
ナーラは最後にもう一度だけ背後を振り返った。
「……ティア、か」
その名だけを覚え、三人は救護所へ向かった。




