↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
459/479

抜けた記憶②

     ◇◇◇


「……見えたぞ。救護所だ」


 ロイドの言葉に、ログが顔を上げた。


 王宮から少し離れた場所に設けられた救護所。その周囲では負傷者たちが横たわり、動ける者が治療や瓦礫の片付けを手伝っている。


「おーい!」


 ログが声を張ると、救護所の前にいたフィリアが振り返った。


「……ログ?」


 一瞬、目を見開く。


「ログ!」


 フィリアが駆け出し、その後ろからユノも顔を出した。


「ログさん⁉︎」


「お、おう……」


 地面に座り込んだまま、ログが片手を上げる。


 フィリアはその姿を見るなり眉を寄せた。


「何その怪我……」


「ちょっとな」


「ちょっとじゃないでしょ!」


「まぁ、生きてるからいいだろ」


「よくない!」


 怒鳴るフィリアの横で、ユノはすぐにログの傍へしゃがみ込んだ。


「とにかく中へ。傷を見ます」


「悪い、糸目……」


「誰が糸目ですか」


 いつもの言葉を返しながらも、ユノの表情に笑みはなかった。


「それより……」


 フィリアがロイドへ視線を向ける。


 その腕の中。


 力なく抱えられている少女を見て、顔色が変わった。


「……レテ?」


「おう」


「レテ!」


 フィリアが駆け寄る。


「レテ! ねぇ、レテ!」


「揺らすな。息はしてる」


「でも……こんな……」


 肩や腕、腿にはいくつもの傷が残っている。


 フィリアは唇を噛み締めた。


「誰が……」


 その声に、少し離れた場所に立っていたリシェルの肩が震えた。


「……私よ」


「え?」


 フィリアが振り返る。


「私が……その人を傷つけた」


 空気が止まった。


 フィリアの目が鋭くなる。


「あなたが?」


「……えぇ」


「どうして」


「それは――」


「待て待て」


 ロイドが面倒そうに二人の間へ入った。


「話は後だ。今は怪我人の治療が先」


「でも!」


「レテが起きてもねぇのに、ここで揉めてどうすんだよ」


「…………」


 フィリアは何か言いたそうにリシェルを睨んだ。


 それでもロイドの腕の中にいるレテを見ると、拳を握ったまま口を閉じる。


「……ユノ」


「はい」


「レテもお願い」


「もちろんです」


 ユノが立ち上がり、ロイドへ救護所の奥を示した。


「こちらへ運んでください」


「あいよ」


 ロイドがレテを運んでいく。


 フィリアもその後を追おうとして、ふと足を止めた。


 振り返る。


 リシェルは脇腹を押さえたまま、その場に立ち尽くしていた。


「あなたも怪我してるじゃない」


「私は……」


「来て」


「……え?」


「そのまま立ってても邪魔」


 ぶっきらぼうに言い捨て、フィリアは背を向ける。


「でも私は……」


「だから何?」


 フィリアが振り返った。


「レテを傷つけたから、治療される資格がないとか言うつもり?」


「…………」


「そんなの、レテが起きてから本人に言って」


 リシェルは何も返せない。


「今死なれたら、レテだって困るでしょ」


「……どうして」


「え?」


「どうして、そこまで……」


「知らない」


 フィリアは即答した。


「何があったのかも知らないし、あなたのこともよく知らない。でも、怪我人がいるなら助ける。それだけ」


「…………」


「ほら。早く」


「……えぇ」


 リシェルは小さく頷き、痛む身体を引きずるように救護所へ入っていった。


     ◇◇◇


「うっ……痛ぇ……」


「動かないでください」


 簡素な寝台に横たわったログへ、ユノが手を伸ばす。


 淡い炎が掌に灯った。


「《暖脈》」


 温かな熱がログの身体へ流れ込み、強張っていた筋肉を少しずつ解していく。


「はぁ……やっぱこれ効くな……」


「治してるわけじゃありませんからね。楽になったからって動いたら駄目ですよ」


「分かってるって、糸目」


「もう一回痛い目見ます?」


「すみませんでした」


 少し離れた寝台では、レテが眠ったまま横になっていた。


 フィリアはその傍から離れず、静かにその顔を見つめている。


「……レテ」


 呼びかけても返事はない。


 それでも胸はゆっくりと上下していた。


「大丈夫ですよ」


 ユノがログの処置を続けながら声をかける。


「傷は多いですけど、致命傷はありません。出血も止められます」


「……うん」


 フィリアは小さく息を吐いた。


「……やれやれ」


 壁際から声がする。


「なんだよ。また仲間増えたのか?」


 両手に拘束具を嵌められたリアスが、壁にもたれながらこちらを見ていた。


 その傍にいたパイルが眉をひそめる。


「君は黙ってて」


「暇なんだよ」


「捕虜が暇なのは普通だから」


「だったら外してくれよ」


「外さないよ」


「ケチ」


「そういう問題じゃないから」


 そのやり取りにも、今は誰も笑わなかった。


 リシェルは少し離れた場所で手当てを受けながら、レテを見つめている。


 自分がつけた傷。


 自分が壊しかけた命。


 記憶はまだ完全には戻っていない。


 それでも、やったことまで消えるわけではない。


「……私は」


 小さく呟いた、その時だった。


 ズズズズズ……。


「……?」


 地面が揺れた。


 救護所にいた全員が一斉に顔を上げる。


「地震……?」


 フィリアが外へ目を向けた。


 違う。


 遥か向こう。


 王宮の方角から、低く巨大な音が響いてくる。


 ゴゴゴゴゴゴ――。


「おい……」


 ログが身体を起こしかけた。


「王宮……崩れてねぇか?」


「動かないでください!」


 ユノに押し戻されながらも、ログは王宮から目を離さない。


 煙が上がる。


 建物の一部が崩れ、大量の瓦礫が落ちていくのがここからでも見えた。


「アルト……」


 フィリアの表情が強張る。


「アルト……無事なの……?」


 誰も答えられない。


 ただ。


 遠くで崩れ続ける王宮を見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。