王の盾タスマン・カルキス
「タスマン! そうか! 生きていたか!」
ミノスの顔が一気に綻んだ。
「心配をかけたカニ……」
「よかった……よかった……俺ぁ……」
目元を潤ませるミノスを見て、タスマンも僅かに表情を緩める。そんな二人へ、ケイロが弓を肩に担いだまま声をかけた。
「へいへい。感動の再会もいいけど、あんまりゆっくりしてる場合じゃないんじゃない?」
「あぁ……ケイロの言う通りカニ。ここへ来る途中、ガルドとネレスに会ったカニ」
「ガルド!」
ミノスの表情が変わる。
「安心するカニ。随分と派手にやられていたが、生きているカニ。我が安全な場所まで運んでおいたカニ」
「そうか……ガルド……」
ミノスが安堵の息を吐く。
「ピシエルのとこは……まぁ、あの脳筋平和主義者なら大丈夫かぁ?」
「うむ。我が手を貸すまでもなかったカニ。奴は強いカニ」
「だよねぇ」
気の抜けた返事をするケイロを横目に、ナーラはタスマンへ目を向けた。
「……おい、タスマン。ここ任せるぞ」
「どこへ……?」
「ジルが心配だ」
その一言でタスマンも察したのか、静かに頷いた。
「……早く行ってくだされカニ」
「恩に着る」
ナーラは踵を返し、そのまま王宮の通路を駆け出した。
その背中を見送ったタスマンも周囲の族長たちへ向き直る。
「さて……それでは、まだ王宮内にいる者たちを助けに行くカニ」
「タスマンさん、もう行くの?」
「まだ助けを待っている者がいるカニ」
タスマンの足元へ泡が広がる。
――シュバァァァァ!!
「おっと」
巨体が横向きのまま凄まじい勢いで滑り出し、あっという間に通路の向こうへ消えていった。
「相変わらず速いなぁ……」
ケイロの呟きだけが、その場に残った。
◇◇◇
「……なんだ?」
バルガスは足を止め、周囲を見回した。
つい先ほどまで崩れ続けていた王宮が、突然静かになっている。亀裂の走った柱も、今にも崩れそうだった壁も、不自然なほど頑丈に固まっていた。
「崩れたと思ったら……固まりおった」
「バルガス隊長!」
「あ?」
「バルガス隊長!」
聞き覚えのある声に振り返ったバルガスは、通路の向こうからやって来る者たちを見て目を見開いた。
「……⁉︎ ガオン王子……スカー王⁉︎」
「おう。確か爆熱だったな?」
「はい! ご無事で……って」
駆け寄ろうとしたバルガスの足が止まる。
「アルト⁉︎」
ガオンに担がれているアルトは、全身傷だらけだった。服は血に濡れ、両腕は力なく垂れている。
「おい、アルト! 何だその怪我! 何があった!」
「……バルガス隊長」
「おう。俺だ」
「俺……俺……」
アルトは何かを言おうとするが、それ以上の言葉が出てこない。
いつものアルトではない。
その様子にバルガスの表情が曇った。
「……セブラン先生は?」
「…………」
アルトの顔が歪む。
答えの代わりに返ってきた沈黙に、バルガスが眉を寄せた。
「あなたが……バルガス」
声を上げたのはセヴェルだった。
「そうだが……何か?」
セヴェルは黙ってバルガスを見る。
父、セトが最後に戦った相手。
聞きたいことはある。だが、今はそれどころではない。
「……いいえ。今はここを離れましょう」
「あぁ。話は後だ。行くぞ」
スカーの言葉にバルガスも頷いた。
「外に救護所があります。そこに行きましょう。ガオン王子、アルトは俺が担ぐ」
「あぁ。お願いします」
ガオンがアルトをバルガスへ預けようとした、その時。
「……うっ……」
「……⁉︎」
小さな呻き声が聞こえた。
「あっ……ここ……は……」
「ラバタ⁉︎」
ガオンが勢いよく振り返る。
「起きたか! ラバタ!」
「……ガオン……?」
ラバタが薄く目を開ける。
まだ意識は朦朧としている。それでもゆっくりと周囲を見渡し、固められた壁や柱を目にした瞬間、その目が僅かに見開かれた。
「これ……親父の硬化……?」
「いいから早く行くぞ!」
スカーの一喝が響く。
「ここで全員仲良く立ち話してどうする! さっさと救護所へ向かえ!」
「ダッハハハハ! 王様が一番元気じゃねぇですか!」
「何か言ったか?」
「何でもありませんよ!」
バルガスはアルトを背負い、ガオンも目を覚ましたラバタを支える。
一行は崩壊を免れた王宮を抜け、外の救護所へと向かった。




