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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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重なる力


 アルトの回転に合わせ、周囲へ広がっていた力が一気に膨れ上がった。


 ――ゴォォォォォッ!!


 水が巻き上がる。


 床が砕ける。


 無数に見えていたセブランの姿が、次々と衝撃の中へ呑み込まれていく。


「ぐっ……こんな、ものでぇぇぇ!!」


 セブランも止まらない。


 《蛇針》を構え、真正面から飛び込んでくる。


 その姿が二つにぶれる。


 三つ。


 十。


 どれが本物なのか、最後まで分からない。


 それでいい。


「うおおおおおお!!」


 アルトは右脚を踏み込んだ。


 崩れかけた身体をさらに捻り、前へ進む。


 一回転。


 衝撃が広がる。


 二回転。


 さらに大きく。


 回るたびに、エーテルから借りた力が《砕旋》へ巻き込まれていく。


「ギィィィィ!!」


「まだ……いける!」


 アルトの身体が大きく傾いた。


 左脚が耐えきれない。


 このままでは倒れる。


「ギィ!」


 その瞬間、身体を包んでいた力が強く脈打った。


「っ!」


 倒れかけた身体が押し戻される。


「ありがと!」


 右脚を叩きつける。


 もう一度。


 回る。


「こんな……!」


 セブランの表情から余裕が消えていく。


 逃げようにも、衝撃はアルトを中心に全方向へ広がっている。


 距離を狂わせても。


 姿を増やしても。


 当たったという認識をずらしても。


 現実に広がる力そのものまでは消せない。


「ふざけるな……!」


 《蛇針》を握る手に力が入る。


「俺は……十五年だぞ……!」


 セブランが踏み込んだ。


「十五年! この日のために生きてきたんだ!!」


「…………!」


「全部捨てた! 名前も! 居場所も! 俺だったもの全部だ!」


 衝撃を切り裂くように、《蛇針》が迫る。


「今更戻れだと⁉︎ 今更やり直せだと⁉︎」


「セブラン!」


「俺に何が残ってるってんだよ!!」


 その叫びとともに。


 一本の《蛇針》が、回転する衝撃を抜けた。


「っ⁉︎」


 細い切っ先がアルトへ迫る。


 それでも。


 アルトは止まらなかった。


「残ってるだろ!!」


「――っ!」


「お前が言ったんだろ!」


 アルトは回る。


 前へ進む。


「医者をやっていたかったって!」


 セブランの目が見開かれる。


「それ、お前がまだやりたいことじゃないのかよ!!」


「黙れぇぇぇぇ!!」


 《蛇針》が突き出される。


 アルトも最後の一歩を踏み込んだ。


「ギィィィィ!!」


 胸の奥からエーテルの声が響く。


 アルトの回転と。


 エーテルの力が。


 完全に重なった。


「うおおおおおおお!!」


 ――轟ッ!!


「がっ――⁉︎」


 巨大な衝撃の環が爆ぜた。


 《蛇針》が弾き上げられる。


 同時に。


 無数に存在していたセブランの姿が、一斉に掻き消えた。


 最後に残った一人。


 本物のセブランを。


 《砕旋・轟環》が真正面から捉える。


「セブラン!!」


「――――ッ!!」


 セブランの身体が宙へ浮いた。


 黒い衣が裂ける。


 背に浮かんでいた蛇遣い座の星々が、一つ、また一つと光を失っていく。


 そして。


 ――ズガァァァァン!!


 セブランの身体が、継承の間の床へ叩きつけられた。


 同時に凄まじい余波が部屋全体を駆け抜ける。


 床に亀裂が走り、古い石碑が砕け、天井から巨大な岩片が落ちた。


「うわっ⁉︎」


 アルトも回転の勢いを殺せない。


 そのまま水面へ転がり、何度か跳ねてから仰向けに倒れた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 もう。


 指一本動かしたくない。


「……やった?」


「ギィ……」


 胸の奥から、弱々しい声が返ってくる。


「……そっちも疲れた?」


「ギィ……」


「そっか……」


 アルトは息を吐いた。


 そして、ゆっくりと顔を横へ向ける。


 少し離れた場所。


 砕けた石床の上に、セブランが倒れていた。


 《慰域》は消えている。


 黒い医衣も。


 背中を彩っていた星々も。


 もうない。


 その手から離れた《蛇針》が、水の中へ沈んでいく。


「…………」


 セブランは。


 動かなかった。


 そして同じ頃。


 継承の間からほど近い地下広間で。


 十五年に渡る執念と共に張り巡らされていた《癒憩》が。


 音もなく。


 解けた。

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