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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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今は一人じゃない

 セブランが床を蹴った。


 今までで最も速く、真正面からアルトへ向かってくる。


「っ!」


 一人だったはずのセブランが揺らぎ、二人、三人と増えていく。


 正面。


 右。


 左。


 どれも同じ顔で、同じように《蛇針》を構えていた。


 アルトは身体を捻る。


 だが、両腕は動かない。左脚にもまともに力が入らず、避けるだけで身体が大きくよろめいた。


「ぐっ!」


 《蛇針》が脇腹を掠める。


 続けざまに蹴りを受け、アルトの身体が水面を転がった。


「ハァ……ハァ……」


「どうした!」


 四方からセブランの声が響く。


「俺を止めるんじゃなかったのか!」


「……止めるよ」


「その身体で何ができる!」


 アルトは歯を食いしばり、どうにか身体を起こす。


 右腕も。


 左腕も。


 もう動かない。


 左脚にも、ほとんど力が入らない。


 それでもアルトは、周囲に並ぶセブランたちを見回した。


 さっきの術なら当たった。


 自分を中心に力を広げれば、《慰域》で位置を狂わされても本物を巻き込める。


 けれど。


「……あれだけじゃダメだった」


「あ?」


「さっきのやつ。当たりはしたけど……お前、まだ立ってる」


 セブランの眉が寄る。


「当たり前だ。テメェみてぇな素人の術一発で――」


「じゃあ、もっと強くすればいい」


「……何?」


 アルトは考える。


 術はまだよく分からない。


 さっきだって、エーテルに手伝ってもらって何とかできただけだ。


 だったら。


 自分が一番慣れているものに、あの力を合わせればいい。


「……《砕旋》」


 呟いた瞬間。


 セブランが鼻で笑った。


「その身体でか?」


「…………」


「両腕は動かねぇ。左脚も使い物にならねぇ。そんな状態で、まともに技が出せると思ってんのか?」


「……まあ、無理だよな」


「あ?」


「一人なら」


 アルトは胸の奥へ意識を向けた。


「エーテル」


「ギィ!」


「手伝って」


「ギィ!」


 返事は早かった。


「俺の《砕旋》に、さっきの周りに広げた力を合わせたいんだ」


「ギィ?」


「えっと……」


 説明しようとして。


 アルトは止まった。


 両腕が動かない。


 身振りで伝えることもできない。


「俺がこう……身体をグルって回すから」


 上半身を僅かに捻る。


「それに合わせて、お前の力も一緒にグルって……いや、ブワッて広げてほしい」


「ギィ……?」


「だから、グルってしてブワッ!」


「ギィ!」


「分かった⁉︎」


「戦ってる最中に何やってやがる!!」


「うわっ!」


 《蛇針》が首筋を掠めた。


 アルトは右脚で床を蹴り、どうにか身体を逃がす。


「危なっ……!」


「テメェ……どこまで人を馬鹿にすれば気が済む!」


「馬鹿にしてないって!」


 よろめきながらも、アルトは腰を捻った。


 その瞬間。


「……あ」


 胸の奥から流れ出した力が、アルトの動きを追った。


 ほんの僅かに身体を捻っただけ。


 なのに、足元の水が円を描くように波打つ。


「ギィ!」


「……そういうことか」


 術だけを使おうとするから分からなかった。


 自分から切り離して考える必要なんてなかった。


 いつも通り動けばいい。


 そこへ。


 エーテルの力を重ねればいい。


「もう一回やるぞ」


「ギィ!」


 アルトは腰を落とした。


 右脚へ力を込める。


 左脚は軸にできない。


 両腕も使えない。


 本来の《砕旋》とは程遠い。


 それでも。


「足りないところは……頼む!」


「ギィィ!」


 胸の奥から力が溢れた。


 アルトの身体を包み、その周囲へ薄く広がっていく。


「……何だ?」


 セブランの表情が変わった。


 浅い水が。


 ゆっくりとアルトを中心に回り始める。


「テメェ……何するつもりだ」


「決まってるだろ」


 アルトは笑った。


「今度こそ、お前をぶっ飛ばす!」


「……やってみろ」


 《蛇針》が持ち上がる。


「そんな壊れた身体で、俺に届くってんならなぁ!!」


 セブランが踏み込んだ。


 同時に、《慰域》が大きく歪む。


 一人が十人に。


 十人がさらに増える。


 前後左右。


 逃げ道を塞ぐように、無数の《蛇針》がアルトへ迫った。


「エーテル!」


「ギィィ!!」


 アルトも右脚で床を蹴る。


 左脚を引きずりながら、一歩。


 腰を捻る。


 身体が傾く。


 それでも、その勢いを殺さない。


 むしろ。


 崩れそうになる身体ごと、回転へ乗せる。


 そこへエーテルの力が重なった。


 ――ゴォッ!!


「なっ⁉︎」


 アルトの周囲で衝撃が渦を巻く。


 腕が動かなくても。


 左脚がまともに使えなくても。


 身体を捻ることはできる。


 一人では完成しない回転を、エーテルの力が外側から大きく広げていく。


「まだ……!」


 右脚を踏み込む。


 もう一度。


 回る。


 《砕旋》の軌道へ力が重なり、衝撃の環が一回り大きくなる。


「こんな……デタラメな……!」


 セブランが《蛇針》を突き出す。


 幾つもの切っ先が迫る。


 それでもアルトは止まらない。


「俺一人じゃ……無理だったけど!」


「ギィィ!!」


「今は――一人じゃない!!」


 さらに一歩。


 回転が加速する。


 浅い水が巻き上がり、継承の間そのものが震え始めた。


 アルトは迫る全てのセブランへ向かって叫ぶ。


「全部まとめて――ぶっ飛ばす!!」


 衝撃の環が一気に膨れ上がった。


「《砕旋・轟環(さいせん・ごうかん)》!!」

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