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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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勝手に決めんなよ

 アルトが胸の奥へ意識を集中させた瞬間、右側にいたセブランが動く。


「っ!」


 《蛇針》が飛んでくる。


 アルトは左腕で身体を押し、どうにか横へ転がった。細い切っ先が頬のすぐ横を通過し、浅い水へ突き刺さる。


「危なっ!」


「余所見してる暇があると思ってんのか!」


 今度は背後。


 振り向いた時には、もう遅い。


「ぐっ!」


 脇腹を《蛇針》が浅く貫いた。


 深くはない。


 それでも、今のアルトには十分だった。


 身体から力が抜け、再び水へ膝をつく。


「ギィ!」


「分かってる……!」


 胸の奥から聞こえるエーテルの声に答えながら、アルトは左手を前へ向けた。


「こう……だったよな!」


 力を押し出す。


 ――ドンッ!!


 見えない衝撃が一直線に走った。


 だが、目の前にいたセブランを何事もなく通り抜ける。


「また外れた!」


「だから無駄だっつってんだろ!」


 別の方向から蹴りが飛んできた。


「がっ!」


 肩を蹴られ、アルトの身体が水面を滑る。


 セブランは追う。


 《蛇針》を構えたまま、幾つにも分かれた姿がアルトを取り囲む。


「何なんだよ、テメェは……!」


「……え?」


「俺のこと何も知らねぇくせに、勝手なことばっか言いやがって!」


 一本の《蛇針》が迫る。


 アルトは左腕で床を押し、無理やり身体を捻った。肩口を切っ先が掠める。


「知らないよ!」


「あぁ⁉︎」


「お前のことなんて、ほとんど知らない!」


 セブランの顔が歪む。


「だったら黙ってろ!!」


「だから聞いてんだろ!」


「……っ!」


 アルトが声を張った。


「分かんないから聞いてんだよ! お前が何でこんなことしたのか! 何が嫌だったのか! どうしてそんなに怒ってんのか!」


「テメェに話して何になる!」


「知らない!」


「…………」


「でも、分かんないまま勝手にお前のこと決めたくない!」


 セブランの動きが、ほんの僅かに止まった。


 その隙にアルトは左手を向ける。


「今だ!」


 ――ドンッ!!


「チッ!」


 今度はセブランが自分から身を躱した。


 外れる。


 だが。


 アルトの口元が僅かに上がった。


「今のは避けた」


「…………」


「ってことは、そこにいたんだろ」


「……クソガキ」


 セブランの表情に苛立ちが浮かぶ。


 アルトは相変わらず本物を見分けられていない。


 それでも。


 少しずつ。


 戦い方を覚え始めている。


「偉そうなこと言いやがって……」


 セブランの声が低くなる。


「テメェに何が分かる」


「だから分かんないって言ってるだろ」


「俺はな!」


 突然。


 セブランが叫んだ。


 継承の間の至るところから、その声が響く。


「この国で人を救った!」


「…………」


「傷を縫った! 骨を繋いだ! 死にかけた奴だって何人も助けた! スコルネとして……医者として、できることは全部やった!」


 《蛇針》が振るわれる。


 アルトは避けきれず、左肩を浅く刺された。


「ぐっ!」


「それでもだ!」


 セブランは止まらない。


「俺がレピオスだと分かった瞬間、全部なくなった!」


「…………!」


「何人救ったかなんて関係ねぇ! 何をしてきたかなんてどうでもいい! レピオスって名前一つで、俺はこの国にいちゃいけねぇ人間になった!」


 また一撃。


 アルトは左腕で受けようとするが、《蛇針》はその横を抜け、頬を掠めていく。


「出て行けって言われた! 俺がどんな奴かなんて誰も見ようとしなかった!」


「セブラン……」


「母親は死んだ! 生まれた場所にだって、俺を待ってる奴なんかいなかった! やっと辿り着いた場所からも追い出された!」


 セブランの呼吸が荒くなる。


 もう。


 戦いながら話しているんじゃない。


 十五年間。


 ずっと胸の奥へ押し込めていたものを、吐き出している。


「俺には帰る場所なんてなかったんだよ!!」


「…………」


 その言葉に。


 アルトの表情が変わった。


「……俺も」


「あ?」


「俺も、故郷とかないよ」


「…………何?」


 セブランの動きが止まる。


「生まれた場所に帰りたいとか、そういうの……俺にはよく分かんない」


「だったら――」


「でも」


 アルトは顔を上げた。


「今は帰りたい場所、あるよ」


「…………」


「レテとか、ログとか、フィリアとか。みんないるから」


 浮かんでくる。


 いつも注意してくるアーヴェル。


 笑って騒ぐ仲間たち。


 自分を待ってくれている人たち。


「俺が帰らなかったら……怒る奴、いっぱいいるし」


「……だから何だ」


「だからさ」


 アルトは少しだけ考えて。


 そのまま思ったことを口にした。


「帰る場所って……場所じゃなくてもいいんじゃないの?」


「…………」


「待ってる奴がいたり、自分がそこに戻りたいって思ったら……それでいいんじゃないの?」


 セブランの手が震えた。


「……黙れ」


「お前だって――」


「黙れ」


「まだいるかもしれないだろ」


「黙れ……!」


「お前に帰ってこいって言ってくれる奴!」


「黙れぇぇぇぇぇ!!」


 セブランが《蛇針》を振り上げる。


 《慰域》が激しく揺らいだ。


 壁も。


 水面も。


 幾つにも分かれたセブランの姿も。


 全てが大きく歪む。


「テメェみてぇなガキに……俺の何が分かる!!」


「分かんないよ!」


 アルトも叫び返す。


「だから――勝手に全部終わったって決めんなよ!!」


 セブランの目が。


 大きく見開かれた。

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