精霊に愛された男②
二人の間を、風が通り抜けた。
「お前の目的は何だ」
「答える必要はない」
「そう」
セリオは肩を竦める。
「なら、倒してから聞く」
「できると思うか?」
「できなきゃ、こんな面倒な呼ばれ方されてないよ」
カイルの口角が僅かに上がる。
「いいだろう」
《裂兎》の刀身へ、淡い緑色の光が流れた。
周囲の風が一斉にカイルへ集まり、落ち葉と土が渦を巻く。
先ほどまでとは比べものにならない圧力だった。
木々が軋む。
枝が折れる。
ヒルトは残された右腕で顔を覆った。
「下がってろ、ヒルト」
「もう……十分下がってますよ……」
「じゃあ、そこで見てろ」
セリオの黒髪が、吹き荒れる風に煽られる。
光を受けた瞳に、青、紫、緑、金の色彩が浮かんだ。
それでもセリオは構えを取らない。
両腕を下げたまま、自然体でカイルと向き合っている。
「武器を出さないのか」
カイルが問う。
「まだいい」
「侮るな」
「侮ってないよ」
セリオは静かに笑った。
「お前がどれだけ強いのか、ちゃんと見たいだけだ」
カイルの姿が消えた。
次の瞬間には、《裂兎》がセリオの首へ迫っている。
先ほどヒルトには見えなかった踏み込み。
だが、セリオの瞳は正確にその動きを追っていた。
上体を僅かに反らす。
刃が喉元を紙一重で通過した。
カイルはそのまま手首を返し、横薙ぎへ繋げる。
セリオは片足を軸に身体を回し、二撃目もかわした。
三撃目。
四撃目。
《裂兎》が風の軌跡を残しながら、上下左右から襲いかかる。
セリオは一歩も後退しない。
最小限の動きだけで、すべてを避けていく。
「……嘘でしょう」
ヒルトが呆然と呟く。
自分には、最初の一撃すら見えなかった。
それをセリオは、まるで相手の動きを事前に知っているかのようにかわしている。
カイルの目が鋭くなる。
「なるほど」
《裂兎》を引き戻し、僅かに間合いを取った。
「その名は、飾りではないらしい」
「そっちもな」
セリオは自分の頬へ触れた。
指先に、薄く血が付いている。
完全には避けきれなかった。
その傷を見て、セリオは楽しそうに笑った。
「久しぶりだよ」
「何がだ」
「ちゃんと戦わないと、俺が負けそうな相手」
何もない空間へ、セリオが手を伸ばす。
幾つもの色を帯びた光が、その掌へ集まり始めた。
カイルは《裂兎》を正眼に構える。
森の中で、二つの力が正面からぶつかろうとしていた。




