灼獅の中
吸収される熱より、押し込まれてくる熱の方が上回り始めていた。
「ぐっ……!」
《灼獅》の装甲がさらに赤く染まる。掌の中心へ熱が吸い込まれているのに、処理しきれなかった熱が腕へ逆流するように広がり、皮膚を内側から焼いていく。
「喰えるからって……いくらでもいけるわけじゃねぇってか!」
ガオンは両腕を強引に外へ弾いた。
《灼王牙》の刃が逸れた瞬間に身を沈め、スカーの懐へ踏み込む。右拳を腹へ叩き込もうとするが、その前に膝が飛んできた。
「がっ!」
腹を打ち抜かれ、息が詰まる。
続けて《灼王牙》の柄が肩へ叩き込まれた。
――ゴッ!!
「ぐぁっ!」
ガオンの身体が石床へ転がる。
すぐに起き上がろうとしたが、右腕が一瞬遅れた。熱を喰らって力は戻っている。それでも、ここまで積み重なった傷と疲労が消えたわけではない。
「ハァ……ハァ……」
顔を上げる。
スカーは追撃してこない。
ただ長い《灼王牙》を構え、ガオンが立ち上がるのを待っている。
「……余裕かよ」
ガオンは口元の血を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。
真っ直ぐ行けば止められる。
攻撃を繋げても、距離を切られれば元に戻る。
熱を喰おうとしても、スカーが本気で出せば《灼獅》の方が先に耐えられなくなる。
「めんどくせぇな……」
呟きながらも、ガオンの口元には薄い笑みが残っていた。
「でもまあ……それくらいじゃねぇとな」
ガオンが床を蹴る。
スカーの突きが来る。
今度は避けない。
「――っ!」
ガオンは身体を僅かにずらし、《灼王牙》の柄を左腕で受けた。衝撃に顔を歪めながら、そのまま柄へ右手を伸ばす。
掴む。
スカーがすぐさま引く。
「逃がすか!」
両脚で踏ん張る。
だが、力比べではスカーが上だった。
《灼王牙》ごと身体を引かれ、ガオンの足が床を滑る。
「クソッ……!」
そのまま刃が跳ね上がる。
ガオンは咄嗟に手を離して後ろへ仰け反った。灼熱の刃が胸元を掠め、服が焦げる。
着地する前に、スカーが踏み込んだ。
「っ!」
柄が脇腹へ。
拳で受ける。
返しの刃が肩へ迫る。
頭を下げて躱す。
ガオンはそのまま一気に距離を詰め、スカーの胸元へ頭突きを叩き込んだ。
――ゴッ!!
「……!」
スカーの上体が僅かに揺れる。
「おらぁ!」
右拳。
左肘。
膝。
攻撃を重ねる。
一撃。
二撃。
三撃。
《灼獅》の光がまた強くなる。
「そうだ……止めなきゃいい!」
スカーが距離を取ろうとする。
ガオンは追う。
拳を振り抜き、外れればその勢いのまま身体を回して蹴りへ繋ぐ。受けられても止まらない。肘、膝、肩。使えるもの全部を叩き込む。
速くなる。
重くなる。
今度こそ。
「逃がさねぇぞ、クソ親父!」
右拳がスカーの頬へ入った。
――ゴッ!!
初めて。
スカーの顔が横を向く。
「入った!」
ガオンはさらに踏み込む。
だが。
スカーの左手が、ガオンの手首を掴んだ。
「……あ?」
次の瞬間。
身体が浮いた。
「うおっ⁉︎」
そのまま力任せに投げられる。
――ドォン!!
背中から石床へ叩きつけられ、肺の空気が一気に抜けた。
「がっ……!」
連撃が止まる。
《灼獅》の高まりも、一気に弱まった。
「……マジか」
起き上がる前に《灼王牙》の刃が迫る。
ガオンは横へ転がって躱した。刃が床へ突き刺さり、周囲の石が赤熱する。
すぐに立つ。
だが、そこへ拳が飛んできた。
――ゴッ!!
「ぐっ!」
頬。
続けて腹。
さらに肩。
ガオンは防ぎきれず、何度も後退した。
「ハァ……っ、クソ……!」
スカーが強い。
武器だけじゃない。
間合いを詰めても強い。
自分と同じ獅子座。
同じように熱を操りながら、それを何年も使い続けてきた男だ。
ガオンは改めて思い知らされる。
「これが……灼王かよ」
スカーは何も言わない。
ただ、再び《灼王牙》を構えた。
刃へ熱が集まっていく。
「またそれか……!」
ガオンも両腕を上げる。
だが、先ほどの痛みが頭をよぎった。
全部は喰えない。
まともに受ければ、今度こそ腕がもたない。
「…………」
そこで。
ガオンはふと掌を見た。
《灼獅》の中心。
熱を吸い込んでいた場所が、まだ赤金色に脈打っている。
「……ん?」
さっきから妙だった。
熱を喰えば身体に力が戻る。
それは分かった。
けれど。
喰った熱の全てが、身体へ流れているわけではない。
まだ。
《灼獅》の中に残っている。
「…………」
ガオンが掌を握る。
中心の光が僅かに強くなった。
「こいつ……」
何かある。
そう感じた瞬間。
スカーが床を蹴った。
「っ!」
考える暇はない。
ガオンは再び構え直し、真正面からスカーを迎え撃った。




