限界
《灼王牙》が、ゆっくりと横へ寝かされる。
刃先ではない。
長い柄そのものを、ガオンとの間へ置くような構え。
「……そう来るか」
ガオンも意味を察した。
さっきまでのスカーは、近づかれればその場で捌き、殴り合いにも応じていた。だが今は違う。最初から懐へ入れる気がない。
「もうバレたってわけかよ」
返事はない。
スカーが一歩踏み込む。
次の瞬間、《灼王牙》の切っ先がガオンの胸元へ走った。
「っ!」
身体を捻って躱す。
すぐに距離を詰めようとするが、今度は柄が横から襲ってきた。ガオンは《灼獅》で弾き、さらに前へ出る。
「逃がすか!」
右拳を振るう。
だが届かない。
スカーは半歩だけ退き、拳の間合いから外れる。そのまま《灼王牙》を突き出した。
「チッ!」
ガオンは腕で受け流した。
熱が《灼獅》へ吸い込まれる。
だが、追撃へ繋ぐ前にスカーはもう距離を取っていた。
「…………」
ガオンが拳を握る。
さっきまで身体にあった、あの加速感。
それが少しずつ薄れている。
「やっぱ……止まると落ちんのか」
攻撃を繋げれば繋げるほど、速く、重くなる。
だが。
一度流れを切られれば、その勢いは永遠には残らない。
「面倒くせぇな……!」
ガオンは床を蹴った。
一気に距離を詰める。
スカーの突き。
右へ躱す。
すぐさま薙ぎ払い。
身体を沈める。
そのまま懐へ潜ろうとした瞬間、柄尻が腹へ飛んできた。
「ぐっ!」
受け止める。
だが。
止まった。
ほんの一瞬。
その一瞬で、スカーはまた距離を取る。
「またかよ!」
ガオンが追う。
突き。
薙ぎ。
切り上げ。
柄尻。
スカーは《灼王牙》の長さを最大限に使い、ガオンが連撃を始める前に間合いを切っていく。
その度に。
《灼獅》の勢いが落ちる。
「クソ……!」
右拳を伸ばす。
届かない。
次の瞬間、灼けた刃が肩を掠めた。
「っ!」
熱は《灼獅》が吸う。
だが。
傷そのものは消えない。
焼ける痛みが肩へ走る。
続けて柄が脇腹へ叩き込まれた。
――ゴッ!
「がっ!」
身体が横へ流れる。
踏ん張ったところへ、さらに一撃。
今度は胸元。
――ドンッ!
「ぐぁっ!」
ガオンは数歩後退した。
「……っ、ハァ……」
呼吸が乱れる。
熱を喰えば、多少は身体が戻る。
だが。
食らった打撃までは消せない。
「思ったより便利じゃねぇな……これ」
苦笑しながら、口元の血を拭う。
スカーは構えを崩さない。
ただ。
じっとガオンを見ている。
「……何だよ」
返事はない。
「言いたいことあるなら言えっての」
もちろん。
今のスカーが答えるはずもない。
それでも。
その目だけは。
どこか、戦いながらガオンを見定めているようにも思えた。
「…………」
ガオンは一度だけ息を整える。
そして。
再び構えた。
「だったら……こっちも考えるしかねぇか」
真正面から行けば、距離を切られる。
殴り始める前に止められる。
なら。
どうやって懐へ入るか。
スカーが《灼王牙》を突き出した。
ガオンは右へ避ける。
次の薙ぎ払いを左腕で受け、そのまま柄へ手を添えた。
「っ!」
掴む。
だが。
スカーはすぐに《灼王牙》を引いた。
掌が滑る。
「チッ……!」
離される。
そこへ柄尻が飛んできた。
今度は避けきれず、頬へ直撃した。
――ゴッ!
「ぐっ!」
ガオンの身体が半回転する。
その隙を逃さず、《灼王牙》の刃が斜めに振り下ろされた。
「っ!」
両腕を交差させる。
――ガァン!!
白銀の装甲へ灼熱の刃が叩きつけられた。
「ぐ……っ!」
熱が。
《灼獅》へ流れ込む。
さっきより多い。
「……あ?」
ガオンが眉を寄せる。
スカーは刃を押しつけたまま、さらに熱を上げた。
《灼王牙》の獅子の目が強く赤く灯る。
広間の空気が一気に揺らいだ。
「おいおい……」
ガオンの額から汗が流れる。
《灼獅》は熱を喰っている。
確かに。
だが。
装甲の隙間が。
少しずつ。
赤くなっていく。
「……待て」
両腕に。
焼けるような痛みが走った。
「ぐっ……!」
喰えている。
なのに。
熱い。
「これ……」
ガオンの表情が強張る。
「限界……だと…」
吸収される熱より。
押し込まれてくる熱の方が。
上回り始めていた。




