灼獅②
スカーの身体から立ち上る熱が、広間の空気を再び歪ませていく。
「……来るか」
ガオンは腰を落とした。
《灼王牙》の獅子の口が赤く灯る。次の瞬間、スカーが床を蹴った。
「っ!」
速い。
長柄とは思えない速度で刃が突き出される。
ガオンは首を傾けて躱し、そのまま右拳を返した。だがスカーは柄を立てて受け止める。金属同士がぶつかり、火花が散った。
「なら――!」
左拳。
さらに肘。
スカーが半歩下がる。
ガオンはそのまま距離を詰め、腹へ膝を突き上げた。
――ゴッ!
「…………!」
初めて。
スカーの身体が僅かに浮いた。
「入った!」
だが喜んだのも束の間、《灼王牙》の柄尻がガオンの顎を跳ね上げる。
「がっ!」
視界が揺れる。
そこへ刃が横から迫った。
「くっ!」
両腕で受ける。
灼熱が《灼獅》へ触れた瞬間、掌を中心に熱が吸い込まれていく。だが衝撃までは消えず、ガオンの身体が大きく横へ流された。
それでも倒れない。
踏ん張る。
「まだだ!」
押し返された勢いを利用して身体を捻り、回し蹴りを放つ。
スカーが《灼王牙》の柄で受ける。
――ガンッ!!
「……ん?」
ガオンの眉が動いた。
今の蹴り。
さっきより速かった。
気のせいか。
考える暇もなく、スカーの反撃が飛んでくる。
突き。
薙ぎ払い。
返しの切り上げ。
ガオンは身体を沈め、捻り、時には《灼獅》で受けながら懐へ潜り込もうとする。
だが、簡単には入らせてもらえない。
「長物使いが……!」
ガオンは迫る刃を右手で弾いた。
続けて左拳。
スカーが受ける。
右の肘。
これも防がれる。
ならば左膝。
さらに身体を回して右の蹴り。
――ドンッ!!
スカーが一歩下がった。
「…………」
ガオンはその感覚を確かめるように、さらに踏み込む。
右拳。
左拳。
肘。
膝。
一つ。
また一つ。
攻撃を繋げる。
すると。
「……やっぱりだ」
身体が軽い。
拳を振るうたびに。
蹴りを放つたびに。
次の動きが僅かに速くなる。
「なんだこれ……!」
スカーが《灼王牙》を横薙ぎに振るう。
ガオンは一歩踏み込み、その内側へ潜った。
さっきなら間に合わなかった。
だが今は。
間に合う。
「おらぁ!」
右拳がスカーの脇腹へ入る。
――ゴッ!!
続けて左。
スカーが腕で受ける。
さらに肘。
膝。
一撃。
二撃。
三撃。
攻撃を重ねるたび、《灼獅》の装甲から漏れる赤金色の光が強くなっていく。
「ハッ……!」
ガオンの口元が吊り上がった。
「面白ぇじゃねぇか!」
スカーの拳が飛んでくる。
頭を振って躱し、頬すれすれを通過した腕へ《灼獅》を叩き込む。そのまま肩を押し込み、反対の肘を胸元へ打ちつけた。
――ゴンッ!!
「…………!」
スカーが二歩下がった。
「今の……」
ガオン自身が目を見開く。
重い。
明らかに。
最初の拳より。
「速くなるだけじゃねぇ……」
拳を握る。
《灼獅》の隙間から熱が漏れた。
「一発ごとに……重くなってやがる」
スカーが《灼王牙》を構え直す。
ガオンは笑った。
「なるほどな」
前へ出る。
「熱を喰って力にするだけじゃねぇ」
右拳。
左肘。
膝。
蹴り。
一撃ごとに。
速く。
重く。
「殴り続けりゃ――どんどん上がってくってわけか!」
ガオンの拳が《灼王牙》の柄を弾き上げた。
空いた懐へ踏み込む。
右拳が腹へ。
左肘が頬へ。
さらに膝。
そして回し蹴り。
――ドォン!!
スカーの身体が大きく後退した。
「…………」
その時。
スカーの目が。
僅かに細くなった。
「……あ?」
ガオンの笑みが少しだけ薄れる。
スカーは追ってこない。
ただ静かに。
《灼王牙》を長く構え直していた。




