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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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444/473

灼獅

    ◇ ◇ ◇


 継承の間からほど近い、地下の広間。


 赤金色の光が弾けた。


 ガオンの両腕を覆っていたのは、一対の重厚な手甲だった。白銀の装甲に金色の縁取り。拳の甲には獅子の頭部を思わせる鋭い面が浮かび、前腕には鬣のような装甲板が幾重にも連なっている。指先には金色の爪。装甲の隙間からは、脈打つように赤金色の熱が漏れていた。


 ヴォルグで手にしたものとは違う。


 誰かに作られたものでもない。


 ガオン自身から生まれた霊器。


 新たな《灼獅》。


「…………」


 だが、それを眺めている暇などなかった。


 真正面。


 スカーの《灼王牙》から放たれた熱が、広間そのものを呑み込もうとしている。


 視界は大きく歪み、石床に残った水分が次々と蒸発していく。獅子の口から突き出た灼熱の刃は赤を通り越し、白く輝き始めていた。


 逃げればいい。


 横へ飛べば、まだ避けられるかもしれない。


 だが。


 ガオンの背後には、意識を失ったラバタがいる。


「……ったく」


 小さく笑う。


 逃げるという選択肢は、最初からなかった。


「だったら俺は――その熱すら喰らってやる!!」


 ガオンは両腕を前へ突き出した。


 次の瞬間。


 灼熱が《灼獅》へ襲いかかった。


「ぐっ……!」


 熱い。


 当然だ。


 腕どころか、身体ごと焼かれるような熱が押し寄せてくる。


 それでも両腕を下げない。


「うおおおおおおっ!!」


 歯を食いしばった、その時だった。


 ――ゴォォォ……。


「……あ?」


 音が変わった。


 押し寄せていた熱が、両掌へ吸い寄せられている。


 《灼獅》の掌。


 その中心にある小さな光へ向かって、赤熱した空気が渦を巻いていく。


「なんだ……これ」


 ガオンが目を見開く。


 熱が消えている。


 いや。


 違う。


 消えているんじゃない。


 喰っている。


 《灼獅》が。


 スカーの熱を。


「ハッ……」


 思わず笑いが漏れた。


「マジで喰ってやがる」


 吸い込まれた熱は《灼獅》の内部を巡り、装甲の隙間を赤金色に輝かせていく。そして、その熱が両腕から身体の奥へ流れ込んできた。


「……っ」


 さっきまで重かった腕に力が戻る。


 震えていた脚にも、少しずつ熱が巡っていく。乱れていた呼吸も、僅かに楽になった。


 傷が治ったわけじゃない。


 殴られた場所も、焼けた皮膚も、身体中が変わらず痛む。


 それでも。


 空っぽになりかけていた身体へ、再び燃料を流し込まれたような感覚があった。


「なるほどな……」


 ガオンは両拳を握る。


「熱が俺の力になるってことか」


 その瞬間。


 灼熱の向こうから《灼王牙》が突き出された。


「っ!」


 咄嗟に顔を傾ける。


 灼けた刃が頬を掠め、皮膚が焼ける臭いがした。


「うおっ!」


 続けて長柄が横薙ぎに振るわれる。


 ガオンは両腕で受けた。


 ――ドンッ!!


「ぐっ……!」


 熱は喰える。


 だが。


 衝撃までは消えない。


 身体が横へ弾かれ、石床を滑る。


「っ……そう都合よくはいかねぇか」


 立ち上がった直後、再び《灼王牙》の切っ先が迫る。


 ガオンは身を沈めて躱し、そのまま懐へ飛び込んだ。


「お返しだ!」


 右拳を振るう。


 スカーが長柄で受け止める。


 ならば左。


 続けて肘。


 膝。


 だが、スカーはその全てを《灼王牙》の長い柄で捌いていく。


「チッ!」


 ガオンが強引に距離を詰めようとした瞬間、獅子の口から伸びた刃が跳ね上がった。


「っ!」


 仰け反る。


 刃が鼻先を通過する。


 そのまま返された柄が、今度は脇腹へ突き刺さった。


「がっ!」


 身体がくの字に折れる。


 さらに肩へ一撃。


 ――ゴッ!!


「ぐぁっ!」


 ガオンは数歩よろめいた。


 力は戻っている。


 確かに、さっきまでとは違う。


 それでも。


 目の前の男は。


 まだ、遥かに強い。


「……ハッ」


 口元の血を腕で拭う。


「そうだよな」


 ガオンはもう一度構えた。


「これくらいで楽に勝たせてくれるほど……甘くねぇよな。クソ親父」


 スカーは答えない。


 ただ、《灼王牙》をゆっくりと構え直す。


 その身体から。


 再び。


 灼けるような熱が立ち上り始めた。

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