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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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笑顔が見たいから

「おっと!」


 ナーラは《獅后》を消し。


 飛び込んできた小さな身体を受け止めた。


「うわぁぁぁん!」


「よしよし……」


 強く。


 けれど。


 壊してしまわないように。


 慎重に抱きしめる。


「おねぇたまぁ……!」


「あぁ。俺だ」


「おにぃたまも……パパ上もいないのぉ……!」


「…………」


 ナーラの表情が僅かに曇った。


「そうか」


「みんな危ないとこ行っちゃった……」


 ジルの小さな手が。


 ナーラの服をぎゅっと掴む。


「ママ上みたいに……死んじゃやぁ……」


「…………」


 ナーラの腕に。


 僅かに力が入った。


「ジル」


 小さな頭へ手を置く。


「大丈夫だ」


「……ほんと?」


「あぁ」


「おねぇたまも……?」


「俺?」


「死なない……?」


「…………」


 ナーラは一瞬。


 言葉を止めた。


 そして。


 ジルを抱いたまま膝をつく。


 妹と。


 同じ高さまで目線を下げる。


「ジル」


「……なぁに?」


「ジルが無事で」


 涙で濡れた頬を。


 親指で優しく拭う。


「いい子で待っていてくれるなら――絶対に帰ってくる」


「……ほんと?」


「あぁ。本当だ」


 ナーラが頷く。


「俺……」


 口にしてから。


 僅かに止まる。


「……私だけじゃない」


「…………」


「ガオンや父上もだ」


「おにぃたまと……パパ上も?」


「あぁ」


 迷わず答える。


「ジルが無事で」


 小さな頭を撫でながら。


「私達の帰りを待っていてくれるなら」


 ナーラは。


 真っ直ぐ妹の目を見た。


「それが理由になる」


「りゆう……?」


「そうだ」


「…………」


「ジルの笑顔が見たいから」


 ナーラが。


 僅かに笑う。


「私達は絶対に帰ってくる」


「…………」


 ジルの瞳から。


 また一粒。


 涙が零れた。


「……ほんとに?」


「あぁ」


「おにぃたまも?」


「帰ってくる」


「パパ上も?」


「帰ってくる」


「おねぇたまも?」


「もちろんだ」


「…………」


 ジルが。


 ナーラの胸へ顔を埋める。


「……じゃあ」


「ん?」


「ジル……いい子で待ってる」


「…………」


 ナーラの目が。


 優しく細められた。


「あぁ」


 もう一度。


 小さな身体を抱きしめる。


「それでいい」


「みんな……帰ってきてね」


「任せろ」


 ナーラは静かに笑った。


「約束だ」


「……うん」


 しばらくして。


 ナーラはジルを離し。


 立ち上がった。


「ウェラ」


「は、はい!」


 突然名前を呼ばれ。


 ウェラは背筋を伸ばす。


「お前……ウェラ・レオジャックだよな?」


「はい!」


「やっぱりか」


「覚えていてくださったんですか⁉︎」


「そりゃ覚えてる」


 ナーラが鼻で笑う。


「前に茶ぁ持ってきて、俺の目の前で全部ひっくり返した奴だろ」


「忘れてくださいぃぃぃ!」


「無理だ」


「即答しないでください!」


 ウェラが頭を抱える。


 ナーラは笑いながら。


 その身体をざっと見た。


 服は汚れている。


 だが。


 目立った怪我はない。


「……お前も無事みてぇだな」


「はい」


「ジルを守っててくれたのか?」


「…………」


 ウェラが少し俯く。


「守れていたかは……分かりません」


「あ?」


「ガオン様がジル様をここまで連れてきてくださって……私は、ここにいろと言われただけで」


「ガオンが?」


「はい」


 ナーラの目つきが変わった。


「詳しく話せ」


「は、はい!」


 ウェラは慌てて姿勢を正す。


「突然ガオン様が来られて、眠っているジル様を私に預けました」


「それから?」


「ここから絶対に動くな、と」


「…………」


「その後は、すぐに王宮へ戻られました」


「…………」


 ナーラの眉間に。


 深い皺が寄る。


「……あの馬鹿」


「え?」


「いや」


 やはり。


 ジルを安全な場所へ置いて。


 自分は王宮へ戻った。


「相変わらず好き勝手やりやがる……」


 とはいえ。


 ジルを見つけ。


 ここへ避難させたことだけは。


 褒めてやってもいい。


「ジル」


「なぁに?」


「どっか痛ぇところあるか?」


「…………」


 ジルが自分の身体を見る。


「おなかすいた」


「それは怪我じゃねぇ」


「あとは……ここ」


 頭を指差した。


「ちょっといたい」


「見せろ」


 ナーラが髪を掻き分ける。


 僅かに。


 腫れている。


「……これ、どうした」


「分かりません」


 ウェラが答えた。


「私が見つけた時には、すでにジル様は意識を失っていましたので……」


「そうか」


 ナーラの目が細くなる。


「気持ち悪くねぇか?」


「うん」


「吐きそうとか」


「ない」


「なら……今んとこは大丈夫そうだな」


 頭を撫で。


 ナーラが立ち上がる。


「ナーラ様」


「ん?」


「王宮は……今どうなっているんですか?」


「俺にも分からねぇ」


「…………」


「分からねぇことが多すぎる」


 ナーラが窓の外を見る。


 遠く。


 今も煙が上がっている。


「六つの部族が謀反を起こしたことになってる」


「六つも⁉︎」


「あぁ」


「そんな……」


「だが」


 ナーラは眉を寄せる。


「どうにも腑に落ちねぇ」


 リシェル。


 ガルド。


 ピシエル族。


 そして。


 先ほど見た。


 ガオンとリシェルが戦った痕跡。


「あいつら全員が、自分から王家へ刃向かったとは思えねぇ」


「…………」


「それに」


 ロイド達から聞いた。


 一人の男。


「セブラン」


「……?」


 ウェラが首を傾げる。


「知ってるか?」


「セブラン……ですか?」


「あぁ」


「……いえ」


 少し考えた後。


 ウェラは首を横へ振った。


「聞いたことがありません」


「やっぱりか」


 スコルネ族を名乗り。


 王宮内部に詳しい。


 だが。


 王家に仕えるウェラすら知らない。


「ますます臭ぇな」


「ナーラ様?」


「こっちの話だ」


 ナーラは右手を開いた。


 光が集まり。


 巨大な《獅后》が姿を現す。


「ウェラ」


「はい」


「ジルを頼む」


「……私が、ですか?」


「あぁ」


「ですが、私なんか……」


「ドジだから無理、とか言うなよ」


「うっ……」


 図星だった。


「でも……」


「ガオンが」


 ナーラは。


 真っ直ぐウェラを見る。


「お前にジルを預けたんだろ?」


「…………」


「なら信じろ」


「……何をですか?」


「ガオンを」


 そして。


 僅かに口元を上げる。


「それと、自分をな」


「…………!」


 ウェラの目が見開かれる。


 ナーラが。


 自分を信じろと言っている。


 薄いとはいえ。


 レオニス家から分かれたレオジャックの血を引きながら。


 王族らしいところなど何一つないと。


 ずっと思っていた自分へ。


「……はい!」


 ウェラは。


 深く頭を下げた。


「ジル様は……私が必ずお守りします!」


「頼んだ」


 ナーラが踵を返す。


「おねぇたま!」


「ん?」


 振り返る。


 ジルが。


 少し寂しそうな顔をしていた。


 それでも。


 泣いてはいない。


「……帰ってきてね」


「…………」


 ナーラは。


 ニッと笑った。


「あぁ」


 《獅后》を肩へ担ぐ。


「さっき約束しただろ?」


「……うん!」


「いい子で待ってろ」


「うん!」


「じゃあな」


 ナーラは。


 建物を飛び出した。


「…………」


 目指すのは。


 再び王宮。


 まだ見つかっていない。


 ガオン。


 セヴェル。


 そして。


 父。


「……待ってろよ」


 《獅后》を担いだまま。


 地面を蹴る。


「絶対に全員連れて帰る」


 背後には。


 待っている妹がいる。


 それだけで。


 走る理由には十分だった

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