親父狩り
先に仕掛けたのはラバタ。
スカーの正面へ甲羅盾を構えながら突っ込む。
「ガオン! 右から行くガニ!」
「分かってる!」
ガオンが反対側へ回り込む。
挟む。
ラバタが正面から受け止め。
ガオンが死角から叩く。
幼い頃から。
何度も一緒に戦ってきた二人だからこそできる動き。
「ガニィ!」
――ドゴォン!!
甲羅盾がスカーへ迫る。
「…………」
スカーは。
僅かに腰を落とした。
そして。
――ガン!!
「ぐっ⁉︎」
片手。
それだけで。
甲羅盾を止めた。
「まだガニ!」
ラバタが全身を硬化させる。
足を踏み締め。
さらに押し込む。
「おらぁ!」
その横から。
ガオン。
《獅醒》で加速した拳が、スカーの脇腹へ伸びる。
――ドゴッ!!
「ぐっ……!」
「入った!」
さらに。
もう一発。
「父上! 悪いが――」
拳を引く。
「しばらく寝てろ!」
――ブンッ!!
「…………⁉︎」
空を切った。
「なっ!」
スカーが沈み込んでいる。
ガオンの拳をかわしながら。
身体を捻る。
「ガオン!」
「っ!」
――ドゴォン!!
「ぐぁっ!」
蹴りが腹へ突き刺さった。
ガオンの身体が折れる。
そのまま。
スカーは甲羅盾を掴んでいる腕を引いた。
「ガニ⁉︎」
ラバタの体勢が崩れる。
「うぉっ――」
――ドガァン!!
スカーの肘が甲羅盾へ叩き込まれた。
「ぐぅっ!」
硬化したラバタが。
盾ごと吹き飛ぶ。
「ラバタ!」
「人の心配してる場合じゃないガニ!」
「⁉︎」
スカーが。
もう目の前にいた。
「速――」
拳。
ガオンが顔を傾ける。
――ブンッ!!
鼻先を通過。
「危ねぇ!」
反撃。
右拳。
――ガッ!!
「……っ」
受け止められた。
拳を。
掌で。
「…………」
「父上……?」
スカーの腕から。
熱気が立ち昇る。
「っ⁉︎」
ガオンの拳を掴む手が。
急激に熱くなった。
「熱っ!」
振りほどこうとする。
だが。
離れない。
「ぐっ……!」
スカーの身体から。
さらに熱が溢れる。
周囲の空気が揺らぎ。
足元に残っていた水分が。
――シューッ……!
蒸気へ変わっていく。
「この状態で……加護まで使うのかよ!」
ガオンが歯を食いしばる。
同じ。
獅子座。
同じ。
体温を操る加護。
だが。
扱いが違う。
ただ身体を熱くするのではない。
必要な場所へ。
必要な瞬間だけ。
熱を集中させている。
「くそっ!」
ガオンも。
掴まれた右腕へ熱を巡らせる。
熱と。
熱。
互いの体温がぶつかる。
「…………」
「負けるかよ……!」
だが。
次の瞬間。
「ぐっ⁉︎」
スカーが突然。
手を離した。
引っ張っていた力が消える。
ガオンの身体が後ろへ傾いた。
「しまっ――」
――ドゴォン!!
拳が頬へ突き刺さる。
「がっ!」
ガオンが吹き飛んだ。
壁へ叩きつけられる。
――ドガァン!!
「ぐ……っ」
「ガオン!」
「平気……だ!」
口元から流れる血を拭う。
「ほんっと……容赦ねぇな……」
スカーが。
ゆっくりガオンへ近づいてくる。
「…………」
その姿を。
ガオンは睨む。
痩せている。
毒に侵され。
まともな状態ではない。
なのに。
自分より。
遥かに強い。
「……これで弱ってんだろ?」
「ガニ」
ラバタも立ち上がる。
「全盛期の王なら、オレ達二人でもこうはいかないガニ」
「…………」
「昔、お前も何度も挑んで負けてたガニ」
「余計なこと思い出させんな」
「事実ガニ」
「今は勝つ」
ガオンが。
再び拳を構えた。
「勝つんじゃないガニ」
「あ?」
「止めるガニ」
「……分かってるよ」
ラバタが隣へ並ぶ。
「ガオン」
「なんだ」
「王の動き。オレが止めるガニ」
「…………」
「お前は殴れ」
「簡単に言うな」
「昔からそれしかできないガニ」
「喧嘩売ってんのか?」
「今は王と喧嘩するガニ!」
「はっ!」
ガオンが笑った。
「そうだったな!」
――ドン!!
ラバタが先行する。
「《不動殻》!」
鋏槍が地面を挟み込む。
全身を硬化。
甲羅盾を前へ。
「来いガニ!!」
スカーが踏み込む。
――ドゴォォン!!
「ぐぅぅぅっ!!」
拳が甲羅盾へ突き刺さる。
石床が砕ける。
だが。
ラバタは下がらない。
「ガ……ニィィィ!!」
両脚が震える。
甲羅盾が軋む。
それでも。
止めた。
「ガオン!!」
「あぁ!!」
ガオンが駆ける。
《獅醒》。
熱を。
全身へ。
「父上!」
スカーの脇へ潜り込み。
拳を引く。
「少し――」
踏み込む。
「我慢してくれ!」
――ドゴォォォン!!
「ぐっ……!」
腹へ直撃。
スカーの身体が浮く。
「まだだ!」
胸。
――ドゴン!!
「ぐぅっ!」
もう一発。
肩。
――ドゴォン!!
スカーが大きく後退した。
「効いてるガニ!」
「分かってる!」
ガオンが追う。
だが。
「…………」
拳を握った瞬間。
「っ……」
痛み。
素手で。
硬い身体を殴り続けている。
すでに拳の皮膚は裂け。
血が滴っていた。
「…………」
一瞬。
ガオンの視線が右腕へ落ちる。
そこにはもう。
《灼獅》はない。
「ガオン!」
「⁉︎」
顔を上げる。
目の前。
スカー。
「やべ――」
――ドゴォォン!!
「ぐぁっ!!」
胸へ拳。
ガオンが吹き飛ぶ。
今度は。
地面を何度も転がった。
「がっ……は……!」
「ガオン!」
「来るな!」
ラバタを制する。
「でも――」
「お前が離れたら……父上を止められねぇ!」
「…………!」
ガオンは。
震える腕で身体を起こす。
「はぁ……はぁ……」
血だらけの右拳。
《灼獅》はない。
それでも。
握る。
「……参ったな」
小さく笑った。
「なくなってみると……」
自分の拳を見る。
「結構、頼ってたんだな」
ヴォルグで手に入れた。
熱を吸い。
力へ変えてくれた武器。
何度も。
無茶に付き合わせ。
最後には。
完全に砕けた。
「…………」
ガオンが顔を上げる。
目の前には。
父。
その向こうには。
守るべき国がある。
「だからって……」
ゆっくり。
立ち上がる。
「ないから戦えませんじゃ――」
拳を構えた。
「格好つかねぇよな」
熱が。
再び。
ガオンの身体を巡り始めた。




