二つの戦い②
スカーがゆっくりと身体を起こす。
「……父上」
ガオンが拳を握った。
その隣で。
ラバタも甲羅盾を前へ構える。
「来るガニ」
「あぁ」
次の瞬間。
――ドン!!
「⁉︎」
スカーが踏み込んだ。
狙いは。
再びアルト。
「させるか!」
ガオンが割って入る。
――ガァン!!
「ぐっ……!」
拳と拳。
真正面からぶつかる。
ガオンの腕へ痺れが走った。
「重っ……!」
毒で弱っている。
身体も痩せ細っている。
それなのに。
拳の重さは。
ラバタと殴り合っていた時とは、また違う。
「父上……こんな状態でもこれかよ」
「ガオン! 押さえるガニ!」
「あぁ!」
ラバタが横へ走る。
スカーの死角へ滑り込み。
甲羅盾を身体へ押し当てた。
「こっちガニ!」
――ドゴン!!
「ぐっ……!」
スカーが横へ押し出される。
その先。
ガオン達が壊してきた壁の向こうに。
広い地下通路が伸びている。
「ラバタ!」
「分かってるガニ!」
ラバタが甲羅盾で押し込みながら後退する。
「親父を向こうへ連れてく!」
「ガニ!」
「ぐぅぅぅ……!」
スカーの腕が振るわれる。
――ドゴォン!!
「ぐっ!」
甲羅盾越しに。
ラバタの身体が大きく後ろへ滑った。
「馬鹿力ガニ……!」
「父上!」
ガオンが横から飛び込む。
素手の拳を腹へ。
「すまない!」
――ドゴン!!
「ぐっ……!」
スカーが一歩下がる。
「ガオン!」
背後からアルトの声。
「そっちは任せた!」
ガオンが振り返る。
アルトは《砕》を構え。
セブランから目を離していなかった。
「お前も死ぬなよ!」
「そっちこそ!」
「はっ!」
ガオンが口元を吊り上げる。
「父上相手に死ねるか!」
再び。
スカーへ向き直る。
「行くぞ、ラバタ!」
「ガニ!」
二人が。
スカーを引きつけながら継承の間を出ていった。
水を蹴る音が。
徐々に遠ざかっていく。
「…………」
アルトは。
それを確認すると。
ゆっくりと《砕》を握り直した。
「さて」
セブランが笑う。
「随分と静かになったな」
「そうだな」
「授業の続きを――」
「いらない」
――バシャッ!!
アルトが踏み込む。
「っ!」
《砕》を横薙ぎに振るう。
セブランの首へ。
――ブンッ!!
「…………⁉︎」
空を切った。
「なっ……」
確かに。
そこにいた。
狙いも。
距離も。
間違っていない。
なのに。
「残念」
声は。
アルトの横から聞こえた。
「っ!」
――ドッ!!
「ぐっ!」
脇腹へ蹴り。
アルトの身体が水面を滑る。
「これが《誤認》だよ」
「くそっ……!」
すぐに起き上がる。
セブランは。
数歩先に立っている。
「今の俺は……」
「間違いなく私を狙った」
セブランが頷く。
「君の中ではね」
「…………」
「厄介だろう?」
「だったら――」
アルトが腰を落とす。
「考えなきゃいい」
「……ほう?」
「見えたもんが信用できないなら」
《砕》を握る手に力を込める。
「全部疑えばいいだけだ!」
――ドン!!
再び踏み込んだ。
「面白い」
セブランの笑みが深くなる。
「やってみたまえ」
◇
継承の間から。
少し離れた地下通路。
先ほどまでの場所よりも。
天井が高い。
幅も広く。
三人が暴れても十分な空間がある。
「ここならいいな」
ガオンが足を止める。
ラバタも。
その隣へ並んだ。
「よくないガニ」
「あ?」
「相手は王ガニ」
「分かってる」
「しかも、お前の父親ガニ」
「それも分かってる」
「なら――」
ラバタが甲羅盾を構える。
「ちゃんと考えて殴るガニ」
「…………」
ガオンが少しだけ笑った。
「お前に言われるとはな」
「うるさいガニ」
足音。
ゆっくりと。
スカーが通路へ入ってくる。
「…………父上」
改めて見ると。
やはり。
酷い。
痩せた頬。
細くなった腕。
荒い呼吸。
身体には。
長い間、毒に蝕まれてきた痕跡がはっきりと残っている。
「…………」
ガオンの拳が強く握られた。
「セブラン……」
「怒るのは後ガニ」
「分かってる」
スカーが。
ゆっくりと腰を落とした。
「来るガニ!」
――ドン!!
一瞬。
消えた。
「速っ――」
ガオンの目の前。
拳。
「っ!」
両腕を交差。
――ドゴォン!!
「ぐぅっ!」
ガオンの身体が後ろへ押し飛ばされる。
「ガオン!」
「平気だ!」
足を踏ん張る。
だが。
スカーはもう目の前。
「ぐっ!」
二撃目。
腹。
ガオンが横へ逸らす。
拳が服を掠める。
「父上!」
反撃。
素手の拳を振るう。
――パシッ。
「…………⁉︎」
掴まれた。
細い手。
なのに。
腕が。
全く動かない。
「嘘だろ……」
スカーが。
そのままガオンの腕を引く。
「ぐっ!」
体勢が崩れた。
膝。
――ドゴッ!!
「がっ!」
腹へ突き刺さる。
身体が浮く。
「ガニィ!」
――ドゴォン!!
横から。
ラバタの甲羅盾。
スカーが吹き飛ばされる。
だが。
空中で身体を捻り。
着地。
「……マジかよ」
ガオンが腹を押さえる。
「これで毒にやられてんのか?」
「ガオン」
ラバタが前へ出る。
「王を舐めるなガニ」
「舐めてねぇよ」
ガオンが立ち上がる。
「俺だって昔から知ってる」
幼い頃。
どれだけ挑んでも。
一度として勝てなかった。
王。
父。
スカー・ルミナス。
「ただ――」
ガオンの表情が険しくなる。
「ここまでとは思ってなかった」
スカーが踏み込む。
「来るガニ!」
ラバタが甲羅盾を構える。
――ドガァン!!
「ぐっ……!」
盾が鳴る。
ラバタの足元。
石床へ亀裂が走った。
「重いガニ……!」
さらに。
拳。
――ガン!!
「ぐぅっ!」
ラバタが押される。
「ラバタ!」
「まだガニ!」
甲羅盾を押し返す。
その隙へ。
ガオンが飛び込んだ。
「父上!」
全身へ。
熱を巡らせる。
――《獅醒》。
体温が跳ね上がる。
身体の内側から。
力が湧き上がる。
「少し寝ててもらうぞ!」
――ドン!!
加速。
懐へ潜る。
そして。
腹へ。
拳を叩き込んだ。
――ドゴォン!!
「ぐっ……!」
スカーの身体が。
初めて大きく後ろへ下がる。
「入った!」
追撃。
「もう一発――」
「ガオン!」
「⁉︎」
スカーの手が。
ガオンの顔面を掴んだ。
「なっ――」
――ドガァァン!!
「ぐぁっ!」
地面へ。
頭から叩きつけられる。
「ガオン!」
ラバタが鋏槍を突き出す。
だが。
スカーはガオンを離し。
半歩下がるだけでかわした。
「ガニ⁉︎」
すぐに。
ラバタの懐へ。
拳。
――ドゴン!!
「ぐっ!」
甲羅盾が間に入る。
それでも。
衝撃を殺しきれない。
ラバタの身体が。
何メートルも後ろへ滑った。
「くっ……!」
「……はっ」
ガオンが。
地面へ手をつく。
額から血が流れる。
「父上……」
ゆっくりと立ち上がる。
「久しぶりに会った息子に……」
血を拭う。
「随分な挨拶じゃないか」
「…………」
スカーは答えない。
ただ。
二人を敵として睨み続ける。
「ガオン」
「ん?」
「どうするガニ」
「決まってる」
ガオンが拳を握る。
右腕には。
もう《灼獅》はない。
守る装甲も。
熱を受け止めてくれる器も。
何もない。
それでも。
「止める」
熱が。
全身を巡る。
「父上も」
拳を構える。
「この国も」
ガオンが笑った。
「全部な」
――ドン!!
三人が。
再び同時に動いた。




