駆け出す二人
ガオンはラバタを見つめ聞く
「何があった」
ラバタはしばらく黙っていた。
やがて。
小さく息を吐く。
「……お前も知ってることガニ」
「…………」
「カルキス族は、戦争がなくなってからどんどん廃れていってるガニ」
ガオンの表情が僅かに曇る。
「……あぁ。だから王族はカルキスに――」
「見張りと工事の立ち会い。それと建物の補強だろ」
ラバタが遮る。
「…………」
「平和な世の中ガニ。それはいいことガニ」
誰も傷つかず。
王を守るために命を懸ける必要もない。
「だけど……それをよく思わない奴らもいるガニ」
ラバタが拳を握る。
「王の盾だった一族が、今じゃ工事の手伝いばかりだって」
「…………」
「一族からはどんどん人が去っていったガニ。このままじゃ……カルキス族そのものがなくなる」
「ラバタ……」
「オレは父上に何度も話したガニ!」
ラバタが声を荒らげる。
「このままでいいのかって! 何か変えないと、本当にカルキス族がなくなるって!」
「…………」
「でも父上は……」
歯を食いしばる。
「王を信じろとしか言わなかったガニ!」
ガオンは何も返せない。
「そんな時だったガニ」
ラバタの声が低くなる。
「……あいつが、父上の前に現れた」
「あいつ?」
「名前は知らないガニ」
「知らない?」
「名乗らなかった。それに父上も、そいつのことは何も教えてくれなかったガニ」
「…………」
「ただ……一つだけ覚えてる」
ラバタが顔を上げる。
「あいつの背中に、刺青があったガニ」
「刺青?」
「星座の刺青ガニ」
ガオンの眉が動いた。
「でも……見たことのない星座だった」
「……見たことがない?」
「ガニ」
ラバタは星詠み候補だ。
ルミナスに存在する星座を知らないはずがない。
それでも。
「あれは……十二の部族、どれとも違ったガニ」
「…………」
「そいつは父上に言った」
カルキス族を。
再び必要とされる一族にできる。
失った立場も。
誇りも。
取り戻せると。
「だけど父上は断ったガニ」
「……親父さんが?」
「そんなやり方で取り戻すものは誇りじゃないって」
ラバタの拳が震えた。
「それから父上は……そいつのことを調べ始めたガニ」
「…………」
「そして――」
言葉が止まる。
ラバタが俯いた。
「父上は……殺されたガニ」
「…………!」
ガオンの目が見開かれた。
「なんだと……いつだ!」
「……お前と会った日ガニ」
「俺と……?」
「ガオンが帰ってきた日。工事の補強が終わったあと……オレは、また父上と話をしに行ったガニ」
このままではカルキス族がなくなる。
何かを変えなければならない。
何度話しても。
父は王を信じろと言うだけだった。
「だから、もう一度ちゃんと話そうと思ったガニ」
だが。
ラバタが父のもとへ着いた時。
「そこには……死んだ父上がいた」
「…………」
「それと――」
ラバタの声が低くなる。
「顔を隠した奴がいたガニ」
ガオンの眉が寄る。
「そいつが……例の?」
「分からないガニ。顔は見えなかった」
「…………」
「でも……オレはそいつが父上を殺したと思った」
考えるより先に。
身体が動いた。
「オレは戦ったガニ」
鋏槍を振るい。
甲羅盾を叩きつけ。
何度も。
何度も攻撃した。
「だけど……」
ラバタの顔が歪む。
「変だったガニ」
「変?」
「当てたと思った攻撃が……効いてない」
「…………?」
「違うガニ。効いてないんじゃない」
ラバタ自身にも。
何が起きていたのか分からなかった。
「確かに当てたと思ったのに……当たってなかったガニ」
「なんだそれ……」
「逆もあった」
避けた。
間違いなく避けた。
そう思った攻撃が。
「次の瞬間には……オレに当たってたガニ」
「…………」
「何度やっても同じだった」
攻撃したはずなのに。
届かない。
避けたはずなのに。
喰らっている。
「オレは……」
ラバタが歯を食いしばる。
「あいつに勝てなかったガニ」
「……お前が?」
ガオンの声から。
僅かに驚きが漏れた。
ラバタの硬さを。
速さを。
誰より知っているからこそ。
その言葉の重さが分かる。
「ガニ……」
ラバタが俯く。
「最後には地面に転がされて……何もできなかった」
「それで……そいつは何て言った」
「…………」
ラバタは少しだけ黙る。
そして。
「あいつはオレに言ったガニ」
――一族を皆殺しにされたくなければ。
俺に従え。
「…………!」
「そして……」
ラバタの拳が震える。
「まずはガオン、ナーラ、ジルを殺せって言ってきたガニ」
「…………」
ガオンの表情が凍る。
「ジル……」
その名を口にして。
「…………あ」
目が見開かれた。
「ジル!!」
「⁉︎」
「そうだ! ジルを置いてきた!」
「どこへガニ⁉︎」
今度はラバタの顔色が変わる。
「ここに向かう途中にあった建物の中だ! 侍女と一緒に隠してきた!」
「一人じゃないガニか⁉︎」
「侍女はいる! でも――」
あの襲撃者が。
自分だけを狙っているとは限らない。
まして。
ジルの名まで明確に挙げられていた。
「くそっ……!」
ガオンが辺りを見回す。
崩れ落ちた地下。
爆発と戦闘で壁も天井もひび割れ。
どこが元の道なのかすら分からない。
「ガオン」
「なんだ!」
「急ぐガニ!」
ラバタが鋏槍を持ち直す。
「まずはここから出るガニ!」
「あぁ!」
ガオンも周囲を見渡す。
「チッ……!」
瓦礫。
亀裂。
暗闇の奥へ伸びる。
いくつもの通路。
「こんな地下……どこに繋がってやがる!」
「文句は後ガニ! 探すガニ!」
「分かってる!」
二人は。
つい先ほどまで殺し合っていたことすら忘れ。
同時に。
地下の奥へ走り出した。




