助けてくれ…
――ドン!!
再び。
地面を蹴った。
「おらぁぁぁ!!」
武器はない。
右腕を覆っていた《灼獅》も。
もうない。
それでもガオンは。
拳を握った。
「ガニッ⁉︎」
――ドゴッ!!
素手の拳が、ラバタの頬へ叩き込まれる。
「ぐっ……!」
確かに入った。
だが。
「……っ!」
ガオンが顔を歪める。
拳から。
赤い血が滲んでいた。
硬化したラバタの身体を。
何の装備もなく殴った。
拳の皮膚が裂ける。
それでも。
ガオンはもう一度、拳を握った。
「ガオン……」
ラバタの声が揺れる。
「もう無理だガニ」
「うるさい」
「…………!」
「まだ終わってねぇ」
ガオンが踏み込む。
「やめるガニ!」
――ブンッ!!
甲羅盾が横薙ぎに振るわれた。
――ドゴォン!!
「ぐっ……!」
ガオンの身体が吹き飛ぶ。
地面へ叩きつけられ。
何度も転がった。
「…………」
ラバタが動きを止める。
「……おい」
ガオンは。
ゆっくりと手をついた。
「……っ」
震える脚で立ち上がる。
「おい……ガオン」
聞いていない。
口元の血を拭い。
また拳を握る。
「うおぉぉぉ!!」
「……っ!」
再び。
ラバタへ殴りかかった。
――ガン!!
甲羅盾が拳を受け止める。
「ぐっ……!」
裂けた拳から血が飛ぶ。
「もうやめるガニ!」
ラバタが鋏槍を振り上げた。
そして。
刃ではなく。
その側面を。
ガオンの身体へ叩きつける。
――ドゴォッ!!
「うっぐはぁ!!」
肺から息が抜けた。
ガオンの身体が地面へ落ちる。
「がっ……は……」
咳き込みながら。
それでも。
また起き上がろうとする。
「…………」
ラバタの手が震えた。
「……ガオン」
「…………」
「死んでしまうガニ……」
その声を聞いて。
ガオンの動きが。
止まった。
「…………」
ゆっくり。
顔を上げる。
「……殺すんじゃ……ねぇのかよ」
「…………!」
ラバタの肩が跳ねた。
「俺の事を……殺そうとしてるんだろ……」
ガオンは立ち上がる。
ふらつきながら。
それでも。
真っ直ぐにラバタを見る。
「だったらテメェ……」
血に濡れた拳を握った。
「そんな顔すんじゃねぇよ」
「…………!」
ラバタの唇が震える。
「……あぁ」
鋏槍を握り直す。
「あぁ!! 殺すガニ!!」
声を張り上げる。
「お前を……!」
甲羅盾を構える。
「お前を……!!」
――その瞬間。
ラバタの脳裏に。
遠い日の光景が蘇った。
まだ。
二人が子供だった頃。
「ラバタ!」
幼いガオンが。
満面の笑みで胸を張っていた。
「俺がお前を守るから!」
「…………ガニ?」
「お前は誇りと民を守れ!」
ラバタは首を傾げる。
「ガオンは誰が守るガニ?」
「はっ!」
ガオンは鼻で笑った。
「守られる王なんかに俺がなるか!」
「…………」
「だから……ラバタ」
ガオンが笑う。
「なんかあったら助けてやるからな!」
「お前がー?」
「なんだよ!」
「ガオンがオレを助けるガニ?」
「当たり前だろ!」
「頼りないガニ!」
「なんだと!」
一瞬。
睨み合って。
「はっははは!」
「はっははは!」
二人の笑い声が。
空へ響いていた。
――そして。
現在。
「…………」
ラバタの腕から。
力が抜けた。
鋏槍が下がる。
甲羅盾も。
構えを失う。
「……無理ガニ」
「…………」
「オレには……」
歯を食いしばる。
声が震える。
「お前を……殺したくないガニ……」
ラバタが俯く。
「…………」
そして。
掠れた声で。
「ガオン……」
初めて。
助けを求めた。
「助けてくれ……」
「…………」
ガオンは何も言わない。
ただ。
幼馴染を見つめる。
やがて。
小さく息を吐いた。
「……ようやく言ったな」
ラバタが顔を上げる。
ガオンは。
傷だらけの顔で。
笑っていた。
「ラバタ」




