目覚める獅子②
――バキッ!!
甲殻鎧の一部が砕けた。
「…………!」
赤い破片が地面へ落ちる。
「はっ……」
ガオンが笑った。
「やっと割れたな」
「一枚割った程度で喜ぶなガニ」
「じゃあ――」
ガオンが拳を構え直す。
「全部割ってやるよ」
「やってみろガニ!」
――ドン!!
ガオンが真正面から飛び込んだ。
「馬鹿正直ガニ!」
鋏槍が突き出される。
「っ!」
ガオンが首を傾ける。
鋭い先端が頬を掠め、血が飛んだ。
それでも止まらない。
「なっ――」
「捕まえた!」
左腕で鋏槍を抱え込む。
「離すガニ!」
「嫌だ!」
ラバタが力任せに引く。
ガオンの身体も引き寄せられる。
だが。
それでいい。
「これなら逃げられないだろ!」
――ドゴォン!!
「ぐっ!」
右拳が胸へ突き刺さる。
――バキッ!!
亀裂が伸びる。
「もう一発!」
――ドゴン!!
――バキバキッ!!
「ガニィ!!」
ラバタが甲羅盾を振るう。
――ガン!!
「ぐっ!」
脇腹へ直撃。
息が詰まる。
それでも。
鋏槍を抱えた左腕は離さない。
「この……離すガニ!」
「離したらまた横に逃げるだろ!」
「逃げてないガニ! 戦術ガニ!」
「同じだ!」
ガオンが深く腰を落とす。
《獅醒》によって全身を巡る熱。
脚。
腰。
肩。
その全てを拳へ繋ぐ。
「はぁぁぁぁ!!」
――ドゴォォォォン!!
「ぐぅっ……ガニ!!」
拳が。
亀裂の中心へ叩き込まれた。
――バキィィィン!!
「…………!」
赤い甲殻が弾け飛ぶ。
胸から肩へ。
腹へ。
ラバタを覆っていた甲殻鎧が、次々と砕け落ちていった。
「はぁ……はぁ……」
ガオンが鋏槍を離す。
数歩下がり。
呼吸を整える。
ラバタも荒い息を吐いていた。
甲殻鎧は。
もうほとんど残っていない。
それでも。
鋏槍と甲羅盾。
《厳蟹》は健在。
「…………」
ガオンが拳を構え直す。
「ここからが本番だな……」
「…………ガニィ」
ラバタも腰を落とした。
――ドン!!
先に動いたのはガオン。
《獅醒》で一気に距離を詰める。
「おらぁ!!」
もう。
拳を阻む甲殻鎧はない。
ラバタの腹へ。
《灼獅》を叩き込んだ。
――ドゴォォン!!
「…………⁉︎」
拳が止まった。
「っ……!」
確かに。
入った。
なのに。
ラバタは僅かに身体を揺らしただけ。
「……マジかよ」
「…………ガニ」
拳から伝わる感触。
先ほどまで殴っていた甲殻鎧とは。
比べものにならない。
「鎧より……遥かに硬ぇじゃないか」
「当たり前ガニ」
ラバタが。
ニヤリと笑った。
カルキス族の加護。
硬化。
鎧がラバタを硬くしていたわけではない。
ラバタ自身が。
その身を鍛え。
加護を磨き続けてきた。
「はっ……」
ガオンも笑う。
「流石……王の盾だなぁ!」
――ドゴン!!
もう一発。
今度は胸へ。
「ぐっ……ガニ!」
僅かにラバタの身体が下がる。
「軽いガニ!」
「あ?」
「昔より拳が軽くなってるガニ!」
「……言ってくれるな」
「ガイストで遊びすぎたガニ!」
「遊んでたわけじゃねぇよ!」
――ドゴォン!!
「ぐっ!」
拳が胸へ叩き込まれる。
それでも。
ラバタは倒れない。
「ほら! もっと腰入れろガニ!」
「敵に殴り方教えてんじゃねぇよ!」
「へなちょこ王子の拳じゃ死ねないガニ!」
「だったら――」
ガオンが深く腰を落とす。
「昔みたいに付き合え!」
――ドゴォォン!!
「ぐぅっ……ガニ!」
ラバタの身体が下がった。
「それガニ!」
「注文多いんだよ!」
――ドゴン!!
「まだ軽いガニ!」
「うるせぇ!」
――ドゴォン!!
ガオンが殴る。
ラバタも黙って受け続けるわけではない。
鋏槍が走る。
――シュッ!!
「っ!」
肩を掠める。
すぐさま甲羅盾。
――ガン!!
「ぐっ!」
ガオンの身体が揺れる。
それでも。
下がらない。
拳を返す。
――ドゴォン!!
「ガニッ!」
鋏槍。
甲羅盾。
《灼獅》。
互いの攻撃が。
至近距離でぶつかり続ける。
「おらぁぁぁ!!」
「もっと来いガニ!!」
――ドゴォン!!
そして。
――ピキッ。
「…………?」
小さな音がした。
ガオンの右拳。
それを覆う銀色の装甲に。
細い亀裂が走っている。
「…………」
ガオンは。
一瞬だけそこを見る。
「どうしたガニ!」
「何でもねぇよ!」
――ドゴン!!
再び。
ラバタを殴る。
――ピキッ。
今度は前腕。
無骨な銀の金属板へ。
新たな亀裂が走った。
「まだだ!」
――ドゴォン!!
――ピキピキッ!!
ラバタを殴る度に。
《灼獅》が軋む。
硬化したラバタの身体に。
拳を叩き込む度に。
少しずつ。
壊れていく。
それでも。
「はぁぁぁ!!」
――ドゴォォォン!!
「ぐぅっ……ガニ!!」
ラバタの足が。
大きく後ろへ滑った。
「…………!」
「はっ……」
ガオンが荒い息を吐く。
右拳を持ち上げる。
《灼獅》は傷だらけ。
拳から前腕まで。
いくつもの亀裂が走っている。
だが。
掌の中心。
熱を吸い上げる光は。
未だ強く輝いていた。
「やっと……」
ガオンが笑う。
「効いてきたな」
「…………ガニ」
――ピキッ。
また。
《灼獅》が軋んだ。
限界が近い。
そんなことは。
ガオン自身が一番分かっている。
「…………」
拳を握る。
――ギシッ。
「まだまだ行くぞ、ラバタ!」
「来いガニ!」
――ドン!!
再び。
二人が同時に地面を蹴った。




