目覚める獅子
「…………ガニ?」
ラバタが甲羅盾を構えたまま、訝しげにガオンを見る。
「…………」
ガオンはゆっくりと息を吸った。
思い出す。
ヴォルグでの戦い。
フェルギアを相手にした、あの時。
自分の身体へ流れ込んできた熱。
『――《活火》』
ユノ・フェルメル。
あいつの術を受けた瞬間。
身体が、内側から変わった。
ただ熱くなったわけじゃない。
脚が軽くなった。
腕に力が入った。
反応も、踏み込みも。
何もかもが一段鋭くなった。
「あの時は……」
ガオンが自分の胸へ手を当てる。
「よく分かってなかったけどな」
「何の話ガニ」
「ちょっと思い出しただけだ」
獅子座の加護。
ガオンが今までしていたのは、ただ自身の体温を引き上げること。
生み出した熱を纏い。
《灼獅》へ送り込む。
だが。
ユノの《活火》は違った。
熱が、一箇所に留まっていなかった。
身体の隅々へ行き渡り。
全身を動かす力へ変わっていた。
「なら……」
同じことを。
自分の熱でやればいい。
――ドクン。
「…………!」
心臓が強く脈打つ。
胸の奥で生み出した熱を。
そこに留めない。
肩へ。
腕へ。
背中へ。
腹へ。
そして。
両脚へ。
――ドクン。
血が巡る度に。
熱が全身へ運ばれていく。
「っ……!」
筋肉が内側から熱を帯びる。
重かった脚が軽くなる。
ぼやけていた視界が冴える。
拳を握る。
――ギシッ。
《灼獅》が小さく軋んだ。
「…………ガニ」
ラバタの表情から。
僅かに余裕が消える。
「ユノ」
ガオンが小さく笑う。
「勝手に借りるぞ」
「誰ガニ?」
「知らなくていい」
腰を落とす。
全身を巡る熱が、さらに速度を増していく。
ユノの《活火》じゃない。
精霊術でもない。
獅子座の加護を持つ。
ガオン・レオニスなりの。
身体の醒まし方。
「――《獅醒》」
――ドン!!
「⁉︎」
足元の石が砕けた。
「なっ――」
一瞬。
ラバタの視界から。
ガオンが消える。
「こっちだ!」
「!」
すでに懐。
《灼獅》を纏った右拳が。
甲羅盾へ叩き込まれる。
――ドゴォォン!!
「ぐっ……ガニ!!」
ラバタの足が。
初めて大きく後ろへ滑った。
――ザザザザッ!!
「…………!」
「はっ」
ガオンが拳を引く。
「やっと動いたな」
「…………調子に乗るなガニ!」
ラバタが鋏槍を突き出す。
――シュッ!!
だが。
「遅い!」
「⁉︎」
ガオンが半歩ずれる。
鋏槍が脇を抜けた。
そのまま。
一気に距離を詰める。
「おらぁ!」
――ドゴン!!
「ぐっ!」
左拳。
甲殻鎧の脇腹へ直撃する。
――ミシッ。
「…………!」
鈍い音。
ラバタの身体が傾く。
「まだガニ!」
甲羅盾が横から振るわれる。
――ブォン!!
「っと!」
ガオンが後ろへ跳ぶ。
着地と同時に。
再び地面を蹴った。
「なっ……!」
速い。
先ほどまで。
横への動きでは。
完全にラバタが上だった。
だが今は。
「追いついたぞ、ラバタ!」
「まだガニ!」
――ザッ!!
ラバタが横へ。
ガオンも追う。
右。
左。
鋏槍が走る。
――ギィン!!
《灼獅》が弾く。
すぐさま拳。
甲羅盾が受ける。
――ドゴォン!!
「ぐっ……!」
「はぁぁぁ!!」
もう一発。
――ガン!!
さらに。
――ドゴン!!
「ガニィィ!!」
鋏槍。
甲羅盾。
拳。
熱。
互いの攻撃が。
息つく間もなくぶつかり合う。
――ギィン!!
――ガン!!
――ドゴォォン!!
「おらぁ!!」
ガオンの拳が。
ラバタの胸へ直撃する。
「ぐっ!」
――ピキッ。
「…………」
赤い甲殻鎧。
その表面に。
小さな亀裂が走った。
「…………ガニ」
「見つけた」
ガオンが。
拳を握り直す。
「お前の硬さ」
再び熱を全身へ巡らせる。
「やっと――」
地面を蹴った。
「届いてきたぞ!!」




