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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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危険な人間

「どうした?」


「…………」


 セブランは。


 蛇を抱く人型の紋様から。


 目を離さなかった。


「……あった」


「え?」


 小さな呟き。


「今、なんて?」


「いや」


 セブランが。


 紋様へ手を伸ばす。


 指先で。


 刻まれた蛇の輪郭をなぞった。


「…………」


「セブランさん?」


 返事がない。


 先ほどまでとは。


 明らかに様子が違う。


「もしかして……」


 アルトが。


 石碑とセブランを交互に見る。


「これ探してたの?」


「…………」


 僅かな沈黙。


「あぁ」


「え?」


 アルトが目を丸くする。


「じゃあ王様の部屋で物色してたのって――」


「物色ではない」


「そこは譲らないんだ……」


「…………」


 セブランが。


 僅かに口元を緩める。


 だが。


 すぐに表情を戻した。


「アルト」


「ん?」


「本当に、ここは読めないのか?」


「ここ?」


 蛇を抱く人。


 その周囲に刻まれた。


 古代の文字。


「うん」


 アルトが。


 もう一度顔を近づける。


「全然分かんない」


「…………」


「でも……」


「?」


「こっちは、少し分かるかも」


 アルトが。


 蛇の紋様から少し離れた文字を指差す。


「これは……星」


 指を横へ動かす。


「次が……選ぶ?」


「…………」


 セブランの目が。


 僅かに動く。


「それで……」


 最後。


 見覚えのある文字。


「ト」


「…………」


「星に……選ばれた人?」


 アルトが首を傾げる。


「たぶん」


「…………」


「セブランさん?」


「アルト」


「なに?」


「君は古代語を、どこで覚えた?」


「どこって……」


 アルトが。


 困ったように頭を掻く。


「覚えたことないよ」


「…………」


「見てると、なんとなく分かるだけ」


「なんとなく……」


「うん」


 セブランが。


 ゆっくりと立ち上がる。


「それは普通ではない」


「そうなの?」


「あぁ」


 巨大な石碑へ。


 視線を向ける。


「古代語を読める人間など、今ではほとんど残っていない」


「でも俺」


 アルトが。


 石碑を見上げる。


「ほとんど意味分かってないよ?」


「それでもだ」


「…………」


 アルトは。


 もう一度。


 石碑全体を見渡した。


 神々。


 精霊を宿す人。


 英雄。


 十二の星座。


 そして。


 十二の中にはない。


 蛇を抱く人の紋様。


「これ……」


「?」


「アーヴェル隊長にも報告しないと」


「…………」


「こんなのが王宮の下にあったなんて、ガオンも知らないかもしれないし」


 アルトが。


 蛇の紋様を見る。


「ナーラさんを助けたら、みんなでちゃんと調べた方が――」


「アルト」


「ん?」


 セブランが。


 アルトの言葉を遮った。


「一つ頼みがある」


「頼み?」


「あぁ」


 静かな声。


「ここで見たものを」


 セブランが。


 真っ直ぐアルトを見る。


「忘れてくれないか」


「…………」


「え?」


 アルトが。


 目を瞬く。


「なんで?」


「…………」


「だって、こんなの見つけたんだよ?」


 石碑を指差す。


「何か大事なことが書いてあるかもしれないし」


「そうだな」


「だったら――」


「だからだ」


「…………?」


 アルトの手が止まる。


 セブランが。


 静かに息を吐いた。


「君は」


 一歩。


 後ろへ下がる。


 ――ピチャ。


 浅い水面に。


 波紋が広がった。


「ここへ来るべきではなかった」


「……セブランさん?」


「それに」


 視線が。


 アルトへ向く。


「古代語まで読めるとは思っていなかった」


「…………」


 先ほどまでとは違う。


 冷たい目。


 アルトの背筋へ。


 嫌な感覚が走る。


「何言ってるの?」


「…………」


「セブランさん?」


「悪いな、アルト」


 セブランが。


 もう一歩。


 距離を取った。


「君は」


 蛇を抱く人型の紋様を。


 一度だけ見上げる。


 そして。


 再びアルトを見る。


「私が思っていた以上に」


 静かな洞窟。


 水面へ。


 一筋の波紋が走る。


「危険な人間らしい」

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