襲撃⑤
アーヴェルは《不落》から片手を離し、頭上へ向けた。
「《鉄壁》」
地面から幾つもの鉄板がせり上がった。
板同士が噛み合い、防衛大臣たちの頭上を覆う屋根を形成する。
次の瞬間、金属針の雨が降り注いだ。
甲高い音が連続し、鉄板の表面で火花が弾ける。
「隊長、右からまだ来ます!」
レテの声に、アーヴェルが視線を動かす。
残っていた小型蜘蛛が、鉄壁の側面を回り込もうとしていた。
「逃がすな、スミスマン。」
「了解です!」
ログが片足を強く踏み込んだ。
「《隆起》!」
蜘蛛型魔具の足元だけが、急激に持ち上がる。
傾いた地面に押し上げられ、魔具の身体が宙へ浮いた。
そこへログが《崩槌》を横薙ぎに叩き込む。
蜘蛛型魔具は街道を転がり、先ほど生み出した土壁へ激突した。
脚を痙攣させた後、赤い光が消える。
それでも、残った魔具たちは退かなかった。
鳥型魔具は上空を旋回し、蜘蛛型魔具は地面を這いながら一定の距離を保っている。
その動きには明確な統率があった。
まるで、どこかから指示を受けているかのように。
「クロイツ殿。」
リオネルが周囲を見渡す。
「あの魔具は、こちらを攻めきろうとしていません。」
「ええ。」
アーヴェルも既に気づいていた。
攻撃は激しい。
だが、決定打を狙う動きではない。
退路を塞ぎ、こちらの注意を引きつけ、時間だけを奪っている。
「やはり、足止めが目的か。」
「恐らくは。」
リオネルが剣を握り直す。
「ならば、別の場所で何かが起きているはずです。」
その言葉と重なるように、遠くの森から爆発音が響いた。
先ほどよりも大きい。
木々の間から、黒い煙が僅かに立ち上っている。
「アルトくん……。」
レテが森へ顔を向けた。
「動くな、オーズィラ。」
アーヴェルは魔具から視線を外さない。
「ですが、このままでは――」
「分かっている。」
アーヴェルの手に、さらに力が籠もる。
《不落》を覆う黒鉄色の光へ、細い亀裂が走った。
固有術《不退》は、攻撃を消しているわけではない。
守る範囲へ加えられた衝撃を、アーヴェル自身が受け止めている。
額から一筋の血が流れ、頬を伝った。
「クロイツ殿!」
リオネルが声を上げる。
「問題ありません。」
「しかし、そのままではお身体が――」
「大臣の護衛を。」
アーヴェルは低く言い切った。
「ここを崩されれば、すべてが無駄になります。」
リオネルは一瞬だけ言葉を失う。
やがて真剣な表情で頷いた。
「承知しました。」
その直後。
鳥型魔具が一斉に翼を広げた。
小型の蜘蛛型魔具も、赤い目を激しく明滅させる。
残るすべての魔具が、同時に攻撃態勢へ入った。
アーヴェルは《不落》をさらに深く地面へ突き立てる。
「全員、俺の後ろから出るな。」
黒鉄色の光が再び厚みを増した。
「ここは通さん。」




