襲撃④
轟音が重なり、街道が揺れた。
それでもアーヴェルは、一歩も退かなかった。
黒鉄色の光は、巨大な甲羅のように護衛隊を覆っている。
鳥型魔具から放たれた金属針が降り注ぎ、狼型魔具の牙が防壁へ食い込む。
小型の蜘蛛型魔具も次々と飛びかかってくるが、そのすべてが光の外側で押し止められていた。
「これが……クロイツ殿の固有術。」
リオネルが蒼い瞳を見開く。
アーヴェルは答えない。
両手で《不落》の柄を握り締め、正面を見据えていた。
衝撃が加わるたび、《不落》の刀身が低く震える。
同時に、その負荷がアーヴェルの腕と肩へ伝わっていく。
「隊長。」
レテが心配そうに呼びかける。
「問題ない。」
短く答えた直後、狼型魔具の一体が再び防壁へ体当たりを仕掛けた。
鈍い衝撃。
アーヴェルの足元へ新たな亀裂が走る。
それでも、踵は一寸も動かなかった。
「スミスマン。」
「はい!」
「左を止めろ。」
「了解です!」
アーヴェルが《不落》を僅かに傾ける。
黒鉄色の防壁の左側に、一人が通れるだけの隙間が生まれた。
ログは《崩槌》を担ぎ、そこから飛び出す。
小型の蜘蛛型魔具が三体、地面を這いながら一斉に迫っていた。
ログは《崩槌》の石突きを街道へ叩きつける。
「《土壁》!」
地面が大きく盛り上がった。
蜘蛛型魔具の左右から、分厚い土の壁がせり上がる。
突然塞がれた進路に、魔具の動きが鈍った。
ログは両手を強く握り込む。
「《岩圧》!」
二枚の土壁が、内側へ一気に倒れ込んだ。
鈍い音が重なる。
挟み込まれた蜘蛛型魔具の脚が折れ、黒い装甲が大きくひしゃげた。
だが、その土壁を飛び越え、狼型魔具がログへ襲いかかる。
「上だ、スミスマン!」
アーヴェルが片手を地面へ向けた。
「《鉄棘》」
街道から黒鉄色の棘が一斉に突き出した。
何本もの鉄棘が狼型魔具の進路を塞ぎ、その腹部と脚の隙間へ食い込む。
狼型魔具の巨体が、空中で止まった。
「《鉄封》」
続けて地面から鉄の鎖が飛び出す。
鎖は狼型魔具の胴体と四肢へ巻きつき、そのまま街道へ叩き落とした。
「今だ!」
「任せてください!」
ログが大きく踏み込む。
振り下ろされた《崩槌》が、拘束された狼型魔具の頭部へ直撃した。
赤い硝子玉が砕け、黒い胴体が沈黙する。
「戻れ、スミスマン!」
「はい!」
ログが防壁の内側へ駆け込む。
直後、開いていた隙間が閉じた。
その表面へ無数の金属針が突き刺さり、激しい火花が散る。
「次はオーズィラだ。」
「分かりました。」
レテが《水凪》を構えた。
「右側を開く。三秒で戻れ。」
「はい。」
アーヴェルが《不落》を反対側へ傾ける。
防壁の右側が開いた。
レテは地面を滑るように外へ飛び出す。
待ち構えていた狼型魔具が、大きく口を開いて突進してきた。
レテは正面から受けず、直前で身を翻した。
鋭い牙が肩のすぐ横を通り過ぎる。
「《水刃》」
湾曲した刀身へ、圧縮された水がまとわりつく。
レテはすれ違いざまに《水凪》を振り抜いた。
水の刃が狼型魔具の後脚へ食い込む。
しかし、完全には断ち切れない。
狼型魔具は崩れた姿勢のまま身体を回し、口内から金属針を放った。
「《水壁》!」
レテの前に水が集まり、薄い膜状の壁を作る。
金属針が水面へ突き刺さった。
勢いを失った針は軌道を逸らし、レテの左右へ落ちていく。
「あと二秒だ!」
アーヴェルの声が飛ぶ。
レテは足を止めず、狼型魔具の懐へ潜り込んだ。
水をまとった《水凪》を、損傷した後脚へ振り下ろす。
今度こそ接合部が切断され、狼型魔具が街道へ崩れ落ちた。
「一秒!」
レテは倒れた魔具を蹴り、開かれた防壁へ駆け戻る。
内側へ飛び込んだ直後、黒鉄色の光が閉じた。
「間に合いました。」
「当然だ。」
アーヴェルは前を向いたまま答えた。
そのとき、頭上を旋回していた鳥型魔具が、一斉に翼を広げた。
腹部から現れた射出口が、護衛隊へ向けられる。
「上から来ます!」
リオネルの声が響いた




