襲撃③
一拍遅れて、一本の脚が街道へ転がった。
支えを失った蜘蛛型魔具の巨体が、地面へ大きく傾く。
「やりました!」
「まだだ、離れろ!」
アーヴェルの声が飛ぶ。
蜘蛛型魔具の胴体が左右へ開いた。
内部から、鋭く尖った金属の棒が突き出される。
狙いはレテではない。
その背後にいる防衛大臣だった。
「《鉄封》」
地面から黒い鉄鎖が飛び出した。
鎖は蜘蛛型魔具の胴体へ幾重にも巻きつき、開きかけた装甲ごと強引に締め上げる。
金属が軋み、突き出された刃が大臣へ届く寸前で止まった。
「ログ!」
「任せてください!」
ログが《崩槌》を大きく振りかぶる。
「ぶっ壊れろ!」
岩塊のような槌頭が、蜘蛛型魔具の胴体へ叩き込まれた。
鈍い轟音が街道へ響く。
黒い装甲が内側へ潰れ、赤く明滅していた硝子玉が砕け散った。
蜘蛛型魔具は数度痙攣すると、完全に動きを止めた。
「終わりましたか?」
レテが《水凪》を構えたまま、周囲を見回す。
「そう簡単に終わるかよ。」
ログの言葉に応えるように、森の奥から金属音が響いた。
一つではない。
右から。
左から。
そして、足元から。
茂みの中に赤い光が灯る。
木々の間から、二体の狼型魔具が姿を現した。
街道の地面を突き破り、小型の蜘蛛型魔具が次々と這い出してくる。
さらに頭上では、金属の翼を持つ鳥型魔具が旋回していた。
「……多いですね。」
「数えてる場合か!」
狼型魔具が低く身を沈める。
小型蜘蛛の背部が開き、無数の射出口が護衛隊へ向けられた。
リオネルは防衛大臣の前に立ち、剣を抜く。
「大臣は、私たちが守ります。」
「お願いします、アクアリス殿。」
アーヴェルは《不落》を構えたまま、敵の動きを見渡した。
魔具たちは包囲を狭めている。
だが、すぐには襲ってこない。
大臣を狙える位置にいながら、一定の距離を保ち続けていた。
「おかしいですね。」
レテも違和感に気づいた。
「なぜ攻撃してこないのでしょう。」
「攻撃できないんじゃないのか?」
「いや。」
アーヴェルが低く答えた。
「攻撃しないだけだ。」
その目が、魔具の向こうに広がる森へ向けられる。
「こいつらの目的は、大臣の殺害ではない。」
「では、何を?」
「我々を、ここから動けなくすることだ。」
次の瞬間。
遠く離れた森の奥から、爆発音が響いた。
鳥たちが一斉に木々から飛び立つ。
レテの顔色が変わった。
「今の方向……アルトくんたちです!」
レテが森へ向かおうとする。
「動くな、オーズィラ。」
アーヴェルの声が、その足を止めた。
「ですが!」
「我々の任務は大臣の護衛だ。」
「でも、アルトくんたちが――」
「エルナーとリーベがいる。」
アーヴェルは魔具から目を離さない。
「今ここを離れれば、敵の思惑どおりだ。」
レテは唇を噛み、《水凪》を握り締めた。
そのとき、上空の鳥型魔具が翼を広げる。
狼型魔具も同時に地面を蹴った。
小型蜘蛛の射出口が赤く光る。
全方位からの一斉攻撃。
アーヴェルは《不落》を地面へ突き立てた。
「全員、俺の後ろへ入れ。」
黒鉄色の光が足元から広がる。
「固有術――《不退》」
光は巨大な甲羅のように護衛隊を覆った。
金属針。
鋭い牙。
上空から振り下ろされる刃。
そのすべてが黒鉄色の光へ激突する。
轟音が重なり、街道が揺れた。
それでもアーヴェルは、一歩も退かなかった




