食糧庫②
「そういえば!」
「あ?」
「お主も名を名乗れ!」
「…………」
「我だけ名乗ったのは不公平ではないか!」
「……いやだよ」
「なぜだ!」
カンポスが。
二又槍を片手に。
ロイドを指差す。
「なーのーれ!」
「…………」
「なーのー……げっほ!」
「?」
「ゴッホ! ゴホッ!」
突然。
咳き込んだ。
「ちょっ……まっ……」
「…………」
「むせた……」
「……うるせぇ……」
ロイドが。
心底面倒そうに頭を掻く。
「ロイド」
「…………!」
「ロイド・ベルク」
「ゴッホ……んん!」
カンポスが。
喉を鳴らし。
姿勢を正す。
「ロイドか!」
「そうだよ……」
「では、ロイド」
「あ?」
カンポスが。
二又槍を構えた。
先ほどまでの。
どこか抜けた雰囲気が消える。
「簡単に倒れるなよ?」
「…………」
――ゴォォォッ!!
「!」
カンポスの周囲。
突如。
大量の水が渦を巻いた。
二又槍が。
その水流へ乗る。
「……はぁ」
ロイドが。
《蒼淵》を下げたまま呟く。
「結局こうなんのかよ」
――ギュン!!
二又槍が。
水流に押し出され。
一直線にロイドへ飛ぶ。
「…………」
ロイドは。
僅かに身体を逸らした。
――ヒュン!!
刃が。
胸元すれすれを通過する。
「遅ぇよ」
《蒼淵》を。
横薙ぎに振るう。
「――《蒼斬》」
――シュン!!
青い斬撃が。
一直線に飛んだ。
「む!」
カンポスが。
身を沈める。
斬撃は。
その頭上を通過し。
背後の壁へ――。
――スッ。
「…………」
一瞬。
何も起こらない。
そして。
――ズズッ。
壁が。
斜めにずれた。
綺麗な断面を残し。
石壁の一部が崩れ落ちる。
「…………」
カンポスが。
壁を見る。
「……やるな」
「……そうかい」
「うむ」
二又槍が。
水流に乗ったまま。
カンポスの手元へ戻る。
「では」
槍先を。
ロイドへ向ける。
「これはどうだ?」
周囲に。
無数の水滴が浮かんだ。
「――《穿雫》」
――ババババババッ!!
「!」
水滴が。
一斉に弾け飛ぶ。
一粒一粒が。
まるで弾丸。
「チッ」
ロイドが。
《蒼淵》を払う。
――シュシュシュシュン!!
迫る水滴を。
一つ。
また一つ。
切り落としていく。
「ほう」
カンポスが。
感心したように目を細める。
「壁で防がぬか」
「あぁ」
最後の一発を。
切り払う。
「後輩に」
《蒼淵》を肩へ担ぐ。
「似たようなの使う奴がいてな」
「ほう?」
「壁なんか出したら」
ロイドが。
カンポスを見る。
「そのまま貫通してくるだろ」
「なるほど」
カンポスが。
大きく頷いた。
「経験とは大事だな」
「分かったなら――」
「だが」
「?」
カンポスが。
二又槍を持ち上げる。
「これは」
頭上。
水が集まり始める。
「経験しておらぬだろう?」
「…………」
「――《千流槍》」
――ズズズズズ!!
「おいおい……」
天井近く。
無数の水の槍が形成される。
「降れ」
――ドドドドドドド!!
「チッ!」
ロイドが。
走る。
一本。
右へ。
二本。
左へ。
――ドガッ!!
水の槍が。
次々と床へ突き刺さる。
「数多すぎんだろ!」
「まだだ!」
「⁉︎」
――ギュン!!
横。
先ほどの水流。
その中を。
二又槍が高速で滑ってくる。
「くっ!」
――ガギィン!!
《蒼淵》で受け止める。
「…………!」
重い。
水流が。
槍そのものを押し続けている。
「捕らえたぞ」
「あ?」
カンポスが。
片手を捻る。
「――《螺旋流》」
――ゴォォォォォ!!
「⁉︎」
二又槍の周囲。
水流が。
一気に渦を巻いた。
槍が。
高速で回転する。
「うおっ!」
――ギャリリリリ!!
《蒼淵》と二又槍が。
激しく擦れ合う。
「くっ……!」
押される。
「こいつ……!」
次の瞬間。
――ドォン!!
「うおっ!!」
ロイドの身体が。
大きく吹き飛ばされた。
――ガシャァン!!
「ぐっ……!」
積まれていた木箱へ。
背中から突っ込む。
果物や穀物が。
辺りへ散らばった。
「…………」
ロイドが。
瓦礫の中から顔を上げる。
「いってぇ……」
その先。
カンポスは。
二又槍を肩へ戻し。
満足そうに頷いていた。
「うむ」
「…………」
「やはり」
槍先を。
再びロイドへ向ける。
「簡単には倒れぬな」
「……嬉しそうに言うなよ」




