食糧庫
ロイドは。
崩れた通路を進んでいく。
「…………」
右腕には。
まだ《蒼淵》。
細長い青銀の刃を下げたまま。
周囲へ目を配る。
「人質に毒……」
小さく呟く。
「その上、参加してる族長まで訳ありと来たか」
「…………」
頭を掻く。
「ほんっと、めんどくせぇ……」
その時。
「……ん?」
足が止まった。
微かに。
鼻を掠める匂い。
「…………」
血だ。
それも。
一人や二人ではない。
「チッ……」
《蒼淵》を持ち上げる。
匂いのする方向へ。
ゆっくり進む。
廊下を曲がる。
「…………!」
床。
一人の男が倒れていた。
「おい」
駆け寄り。
首元へ指を当てる。
「……生きてるな」
男の腹には。
長い鎖。
その鎖は床を這い。
少し離れた場所へ伸びている。
その先。
もう一人。
同じように。
腹へ鎖を巻いた男が倒れていた。
「ピシエル族か……」
ロイドが顔を上げる。
「…………」
一組だけではない。
その先にも。
二人一組。
互いの腹へ長い鎖を巻き合ったピシエル族が。
何組も倒れている。
「おいおい……」
一人。
また一人。
確認する。
「こいつも生きてる」
目立つ外傷はある。
だが。
死んではいない。
「誰がやった……?」
倒れた者達は。
廊下の奥まで続いていた。
そして。
その先。
「食料庫……?」
大きな扉が。
僅かに開いている。
ロイドが。
《蒼淵》を構えたまま近づく。
扉へ手を掛け。
ゆっくり押した。
――ギィィィ……。
「…………」
木箱。
樽。
大量に積まれた食料。
その隙間にも。
何組ものピシエル族が倒れていた。
「なんだこりゃ……」
長い鎖が。
床の至る所へ広がっている。
「…………」
そして。
奥。
「……あ?」
ロイドの視線が止まる。
他の者とは。
明らかに違う装い。
大柄な男が。
床へ倒れていた。
その手には。
巨大な錨を思わせる霊器が握られている。
「まさか……」
ロイドが。
目を細める。
「ピシエルの族長か?」
「…………」
胸は動いている。
生きている。
だが。
意識はない。
「族長まで……」
その瞬間。
「…………!」
ロイドが。
《蒼淵》を構えた。
族長のすぐ近く。
一人の人物が立っている。
白い外套。
顔の一部を覆う仮面。
その手には。
一本の二又槍。
先端を二つに分けた刃の周囲を。
薄い水が。
ゆらゆらと漂っている。
「…………」
白い外套の男が。
ゆっくりとこちらを向く。
「む?」
「…………」
「我に何か用か?」
「…………」
ロイドが。
周囲へ視線を向ける。
倒れたピシエル族。
そして。
その族長。
「こいつら」
男を見る。
「お前がやったのか?」
「うむ」
二又槍を肩へ担ぐ。
「我がやったが?」
「……そうかよ」
ロイドの目が細くなる。
「なら聞く」
「む?」
「お前」
《蒼淵》の切っ先を向ける。
「このクーデターに関係は?」
「…………」
男が。
首を傾げた。
「クーデター?」
「あぁ」
「それはなんだ?」
「…………」
「…………」
ロイドが。
暫く黙る。
「なにもんだ、お前……」
「我か?」
「他に誰がいる」
「ふむ……」
男が。
少し考える。
「知らない人間には、名乗ってはいけないと言われている」
「誰にだよ」
「…………」
さらに。
考える。
「忘れた」
「おい……」
「む?」
「…………」
ロイドが。
眉間を押さえる。
「もういい……」
「ところで」
「あ?」
男の視線が。
《蒼淵》へ向いた。
「先ほどから霊器を構えているが……」
「…………」
二又槍を。
ゆっくりと下ろす。
「我とやるつもりか?」
「…………!」
――ゾクッ。
ロイドの背筋を。
冷たいものが走った。
「…………」
今までとは違う。
僅か。
一瞬だけ。
男の纏う空気が変わった。
(なんだ……こいつ)
身体が。
勝手に警戒している。
「必要ならな……」
「ほう!」
男の声が弾む。
「では――」
二又槍を構える。
「カンポス!」
「…………」
大きく胸を張る。
「いざ参る!」
「…………」
「…………」
「あ!」
「?」
カンポスが。
自分の口元を押さえた。
「名前言っちゃった!」
「…………」
「聞かなかったことにしてくれ」
「無理だろ」
「むぅ……」
「カンポスな」
「言うな!」
「自分で言ったんだろうが……」
ロイドが。
呆れたようにため息を吐いた。
「……めんどくせぇな」




