切る方が楽だな
◇
少し前。
ルミナス王宮。
「……ったく」
ロイドが。
煙草の煙を吐き出す。
「数が多すぎんだろ」
その周囲には。
倒れたタウルス族の男達。
「斬らずに片付けんのも、楽じゃねぇな……」
煙草を指で摘まみ。
残った火を踏み消す。
「あー……帰りてぇなぁ」
首を鳴らしながら。
周囲を見回す。
「あいつら、どっち行ったっけ?」
「…………」
ロイドは。
アルトとセブランが向かったであろう通路へ目を向ける。
そのまま。
反対側へ視線を移した。
そこには。
巨大な壁。
ガルドによって地面ごと押し上げられ。
ログ達と分断された場所。
「…………」
少し考え。
ロイドが壁の前へ歩いていく。
「先にこっちか」
壁を見上げる。
分厚い。
迂回するとなれば。
相当な時間が掛かる。
「……めんどくせぇな」
ロイドが。
小さく息を吐いた。
「……行くぞ、アオ」
その言葉に応えるように。
淡い光が。
ロイドの傍らへ集まっていく。
「…………」
ゆっくりと。
姿を現したのは。
一羽のアオサギ。
細長い脚。
長い首。
鋭い嘴。
青白い光を纏った精霊が。
静かにロイドを見つめる。
「…………」
いや。
静かというより。
明らかに。
面倒くさそうな目をしていた。
「そんな目で見るなよ……」
「…………」
「俺だって好きでやってんじゃねぇんだから」
アオは。
返事をすることもなく。
僅かに顔を逸らした。
「お前なぁ……」
ロイドが苦笑する。
そして。
持っていた剣を鞘へ納めた。
右手を。
ゆっくりと前へ出す。
「――《蒼淵》」
――フワッ。
アオの身体が。
青白い光へ変わる。
その光が。
ロイドの右腕へ絡みついた。
手。
手首。
そして。
肘近くまで。
濃い青銀色の装甲が形成されていく。
表面には。
羽を重ねたような細い紋様。
そして。
握られた拳の先から。
一本の刃が伸びた。
「…………」
細い。
長い。
一般的な剣とは。
明らかに違う。
アオサギの長い嘴を思わせる。
鋭く研ぎ澄まされた刀身。
根元は深い蒼。
切っ先へ向かうほど。
淡い青白へと変わっている。
「さて……」
ロイドが。
壁の前へ立つ。
「このくらいなら」
《蒼淵》を持ち上げる。
「…………」
霊素を流し込む。
――キィィィン……。
微かな音。
《蒼淵》の刃が。
青白く輝き始めた。
さらに。
霊素を込める。
光が。
より細く。
より鋭く。
刀身の輪郭へ集約されていく。
《蒼淵》。
その能力は。
極めて単純。
込めた霊素が多いほど。
刃は。
鋭くなる。
「…………」
ロイドが。
壁へ刃先を当てる。
――スッ。
「…………」
抵抗がない。
石の壁へ。
まるで水へ指を入れるように。
《蒼淵》が沈んでいく。
「こんなもんか」
そのまま。
横へ振る。
――スゥゥゥッ。
音すら。
ほとんど鳴らなかった。
分厚い石壁へ。
一本の線が走る。
続いて。
縦。
斜め。
ロイドが。
何度か《蒼淵》を振るう。
「よっと」
最後に。
壁の中央へ。
軽く蹴りを入れた。
――ドン。
一瞬。
何も起きない。
そして。
――ズズッ。
「…………」
壁が。
ずれた。
――ゴゴゴゴゴゴ!!
巨大な石の塊が。
綺麗な断面を晒しながら。
一つ。
また一つ。
崩れ落ちていく。
――ドォォォン!!
土煙。
その向こうに。
塞がれていた通路が現れた。
「…………」
ロイドが。
《蒼淵》を軽く振る。
「やっぱ」
崩れた壁の断面を見る。
「斬る方が楽だな」
傍ら。
光へ戻ったアオが。
呆れたようにロイドを見る。
「……だからそんな目で見るなって」
ロイドは。
崩れた壁の向こうへ。
ゆっくりと足を踏み入れた。




