精霊術師と奇妙な旅人②
村を出発してしばらく。
街道には穏やかな風が吹き抜け、木々の葉が静かに揺れていた。
レテは前を歩き、その数メートル後ろをアルトがついてくる。
二人の間には、一本の銀色の鎖。
歩くたびに、しゃらり、と乾いた音を響かせていた。
レテは歩調を緩めることなく、そっと手元の鎖へ視線を落とす。
軽く引く。
鎖は張り、後ろを歩くアルトの歩みも自然と止まった。
異常はない。
《捕縛の腕輪》。
護送任務や危険人物の拘束に用いられる、ごく一般的な魔具である。
内部に組み込まれた魔法陣が術式を維持するため、精霊術とは違い、精霊の力を借りる必要はない。
一度起動すれば、使用者は鎖を持つだけで拘束を維持できる。
各国で広く普及している、ごくありふれた護送用の魔具で子供で扱える代物だ。
だからこそ、レテは密かに危惧していた。
昨日、この青年が近づいた瞬間、精霊たちは一斉に逃げ出した。
自分の精霊術も維持できず、水の壁はその場で霧散した。
もし、その影響が魔具にまで及ぶのなら――。
この青年を無事にジーアスまで連れて行くことはできない。
だが。
鎖は何の問題もなく青年を拘束している。
術式が乱れる気配もない。
(……よかった。)
(魔具は、ちゃんと機能するみたい。)
レテは胸の内で小さく安堵した。
少なくとも、首都まで護送する手段は確保できている。
それだけでも十分だった。
「レテー!」
後ろから元気な声が飛んでくる。
レテは返事をしない。
「レテー?」
そのまま歩き続ける。
「聞こえてるー?」
返事はない。
レテは無言を貫いた。
すると――。
「レテぇぇぇーーっ!」
「ひゃっ!」
突然の大声に、レテの肩が大きく跳ねた。
肩に止まっていた風の精霊は驚いて空へ逃げ、水の精霊も木々の陰へと姿を隠していく。
レテはゆっくりと振り返った。
「……うるさいです。」
「だって返事してくれないじゃん!」
「聞こえています。」
「じゃあ返事してよ!」
「必要ありません。」
「あるよ!」
アルトは不満そうに頬を膨らませる。
その様子を見て、レテは小さくため息をついた。
(……本当に。)
(昨日、あれだけの戦いをした人と同じ人には見えない。)




