漲る力
◇
救護所――外。
――ドガァン!!
「ぐっ……!」
パイルの身体が地面を転がる。
すぐに《風穴》を突き立て、身体を起こした。
「はぁ……はぁ……」
「はははは!」
その正面。
リアスが楽しそうに笑っている。
「まだ立つか!」
「そりゃあね」
パイルが苦笑しながら《風穴》を構える。
「僕にも守るものがあるからさ」
「いいねぇ!」
リアスが右脚を地面へ落とす。
――ドン!!
たった一歩。
それだけで石床へ亀裂が走った。
「そういう奴、大好きだぜ!」
「僕はあんまり好かれたくないんだけどなぁ……」
パイルが小さく息を吐く。
右腕が重い。
脚にも。
はっきりと疲労が溜まっている。
(厄介だなぁ……)
リアスの霊器。
《征蹄》。
歩く。
走る。
跳ぶ。
その度に生まれた力を蓄え。
蹴りへ乗せる。
戦いが長引くほど。
リアスの一撃は重くなる。
「もっと行くぞぉ!!」
――ダン!!
「っ!」
一気に距離を詰めてくる。
「《風壁》!」
――ゴォッ!!
風がパイルの前へ集まり。
壁となる。
だが。
「邪魔だぁ!!」
――ドゴォォン!!
「うわっ!」
蹴り一発。
《風壁》が弾け飛ぶ。
衝撃に押され。
パイルの身体が僅かに浮いた。
「まだまだぁ!」
「本当に元気だなぁ!」
続けて。
反対の脚が迫る。
「《風呼び》!」
――ゴォッ!!
「お?」
リアスの身体を横へ引く。
――ブォン!!
蹴りが。
パイルの鼻先を通り過ぎた。
「危なっ!」
「ははっ! 惜しかったなぁ!」
「僕としては全然惜しくなくていいんだけどね!」
後ろへ跳ぶ。
だが。
着地した瞬間。
「…………っ」
膝が僅かに沈んだ。
(脚まで来てるか……)
「どうしたぁ?」
リアスが。
ニヤリと笑う。
「動き鈍ってんぞ!」
「……ばれた?」
「当たり前だろ!」
――ダン!!
「っ!」
また。
速い。
避け切れない。
パイルが《風穴》を前へ出す。
――ガァン!!
「ぐっ……!」
蹴りが直撃。
腕から肩へ。
強烈な衝撃が突き抜ける。
――ズザザザッ!!
「っ……!」
地面を滑り。
ようやく止まる。
「はぁ……」
パイルが。
右肩を軽く回した。
「いやぁ……」
苦笑する。
「これは結構きついなぁ」
「あぁ?」
リアスが首を傾げる。
「もう終わりか?」
「嫌だよ」
「は?」
「ここで僕が倒れたら」
パイルが。
救護所へちらりと目を向ける。
「後ろのみんなが困るからね」
「…………」
「だから――」
《風穴》を構える。
「もう少し頑張らせてもらうよ」
「ははっ!」
リアスが嬉しそうに歯を見せた。
「いいじゃねぇか!」
腰を落とす。
「なら次で――」
その時。
――フワッ。
「……ん?」
パイルの頬を。
温かい風が撫でた。
「なんだ?」
リアスも気付く。
「…………」
青白い炎。
風に包まれた小さな火が。
こちらへ向かって飛んできている。
「火……?」
パイルが目を細める。
炎は。
真っ直ぐ。
こちらへ――。
――ボッ!!
「⁉︎」
胸元へ飛び込んだ。
次の瞬間。
青白い炎がパイルの身体を包む。
「おお……?」
熱い。
だが。
焼けるような熱ではない。
――ドクン!!
「…………!」
心臓が強く脈打つ。
重かった脚へ。
力が戻っていく。
右腕の疲労も。
僅かに遠のいた。
「この火……」
パイルが自分の手を見る。
「…………」
そして。
ふっと笑った。
「あぁ、なるほど」
「なんだぁ?」
「ユノ君か!」
身体を包む炎が。
風に煽られながらも消えずに揺れている。
「ってことは……」
その炎を運んできた風。
「フィリア君もかな」
パイルが。
小さく笑う。
「やってくれるなぁ」
「なんだか知らねぇが……」
リアスが構える。
「急に元気になりやがったな!」
「おかげさまでね」
パイルが腰を落とす。
「もうちょっと付き合えそうだよ」
「ははは!」
リアスの笑みが深くなる。
「そうこなくっちゃなぁ!!」
――ダン!!
リアスが駆ける。
「…………!」
パイルも。
地面を蹴った。
――ドン!!
「なっ⁉︎」
リアスの目が見開かれる。
先ほどまで。
追いつくだけで精一杯だった。
その距離を。
今度はパイルから一気に詰める。
「速ぇ……!」
「僕も驚いてるよ!」
懐。
パイルが左手を突き出す。
「《風撃》!」
――ドン!!
「ぐっ!」
風の塊が。
リアスの胸を打つ。
身体が僅かに浮いた。
「《風呼び》!」
――ゴォォッ!!
「おおっ⁉︎」
浮いたリアスの身体を。
そのまま自分へ引き寄せる。
「こいつ……!」
「行くよ!」
パイルが右腕を大きく引いた。
《風穴》が。
周囲の風を吸い込んでいく。
――ゴゴゴゴゴ!!
「はぁぁぁっ!!」
「ははは!」
リアスが。
空中で身体を捻る。
「正面からか!」
右脚。
《征蹄》が振り上げられる。
「いいぜ!!」
これまで蓄えてきた力を。
一気に解放する。
「潰してやる!!」
「それは困るなぁ!」
パイルも。
さらに踏み込む。
「だから――」
蹴りと。
《風穴》。
二つがぶつかる。
「《大風砲》!!」
――ドォォォォォン!!
「ぐっ⁉︎」
圧縮された風が炸裂。
リアスの蹴りを。
真正面から押し返す。
「なにっ――」
右脚が大きく弾かれた。
身体が開く。
「まだだよ!」
「⁉︎」
パイルが踏み込む。
青白い炎が。
全身を大きく揺らした。
今までなら。
間に合わなかった。
だが。
今なら。
「《風杭》!」
――ドゴォン!!
「がっ!!」
圧縮された風の杭が。
リアスの腹部へ叩き込まれる。
「ぐ……ぉ……!」
巨体がくの字に折れた。
そのまま。
吹き飛ぶ。
「逃がさないよ!」
パイルが手を伸ばす。
「《風呼び》!!」
「⁉︎」
――ゴォォッ!!
吹き飛びかけた身体が。
再び。
パイルへ引き戻される。
「てめぇ……!」
「そろそろ――」
右腕を。
引き絞る。
「大人しくしてくれないかな!」
――ドゴォン!!
「がぁっ!!」
《風穴》が。
リアスの腹部へ直撃する。
「ぐ……っ!」
「吹き飛べ!!」
――ドォォォォォォン!!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい風圧。
リアスの巨体が一直線に吹き飛ぶ。
――ドガァァァン!!
「…………!」
壁へ激突。
石壁が大きく陥没し。
亀裂が四方へ走った。
――ガラガラ……。
「はぁ……はぁ……」
パイルが。
ゆっくりと《風穴》を下ろす。
「…………」
身体を包む。
青白い炎。
「助かったよ」
小さく笑う。
「二人とも」
「…………」
そして。
崩れた壁を見る。
リアスは。
動かない。
「さすがに……」
パイルが息を整える。
「今のは効いたでしょ」
「…………」
数秒。
静寂。
「……は」
「ん?」
「はは……」
「…………」
瓦礫の奥から。
笑い声。
――ガラッ。
「いやいや……」
パイルの顔が引きつる。
「嘘でしょ?」
「はははははは!!」
瓦礫を押し退け。
リアスが立ち上がる。
口元から。
血が流れていた。
身体にも。
明らかな傷が刻まれている。
それでも。
「最高じゃねぇか……!」
笑っている。
「お前……!」
リアスの笑みが。
どんどん。
深くなる。
「やっぱり強ぇなぁ!!」
「……本当に厄介だなぁ」
パイルが。
《風穴》を構え直す。
「普通は今ので倒れると思うんだけど」
「普通?」
リアスが。
口元の血を拭った。
「そんなもん――」
両脚へ力を込める。
「知らねぇよ!!」
「だろうね……」
パイルが。
困ったように笑った。




