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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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尻尾が狂ってしまったみたいだ


「ししし……」


 セトが。


 ゆっくりと《毒吻》を持ち上げる。


「まだ……終わってませんよ」


「ダッハハハハ!」


 バルガスも《炎駒》を構える。


「そうこなくちゃなぁ!」


 ――ビュン!!


 《毒吻》が地面を叩く。


 赤紫色の毒液が飛び散り。


 バルガスとソラティオの進路を塞ぐ。


「ソラティオ!」


 ――ヒヒン!!


 ソラティオが横へ跳ぶ。


 毒液を避け。


 そのまま前へ。


「ししし……!」


 セトの蠍の尾が振るわれる。


 ――シュッ!!


 毒針。


「右だ!」


 ソラティオが身体を傾ける。


 躱す。


 続けて《毒吻》。


 それも。


 蹄を鳴らしながら避けていく。


「ダッハハハハ!」


「しし……!」


 毒。


 鞭。


 毒針。


 次々と迫る攻撃を。


 ソラティオが躱しながら駆ける。


「行けぇ!!」


 バルガスが《炎駒》を構える。


 セトまで。


 あと僅か。


 その時。


「…………?」


 バルガスの目が。


 僅かに見開かれた。


 ソラティオの鬣。


 深い赤だったそれが。


 薄く。


 透け始めている。


「⁉︎」


 首。


 胴。


 四本の脚。


 実体を得ていた身体の所々から。


 淡い光が零れていた。


「ソラティオの肉体が……」


 バルガスが歯を食いしばる。


「消え掛かってやがる!」


 ――ブルルッ!


 それでも。


 ソラティオは止まらない。


「おい!」


 前脚を踏み込む。


 その瞬間。


 ――フッ。


「なっ――」


 前脚が。


 光へ戻った。


 支えを失った身体が大きく傾く。


「うっ!」


 バルガスが前のめりに投げ出された。


 ――ドサッ!!


「ぐっ……!」


 床を転がる。


「ソラティ――」


 プスッ。


「…………!」


 背中へ。


 鋭い痛み。


「っ……!」


 振り返る。


 蠍の尾。


 その毒針が。


 バルガスの背中へ突き刺さっていた。


「ししし……」


「……の野郎……!」


 バルガスが《炎駒》を握ろうとする。


(クソ!)


(なんの毒だ!)


 直後。


 ――ドクン!!


「ぐっ……!」


 身体が。


 燃えるように熱くなる。


 血が沸騰したような。


 凄まじい熱。


「ぐうううぅ!!」


 バルガスが床へ手をつく。


「ししし……」


「ぐっ……!」


 熱い。


 全身が。


 焼ける。


「…………」


 だが。


「あ?」


 バルガスが。


 自分の手を見る。


 動く。


 さっきまで。


 まともに力の入らなかった指が。


 何事もなかったかのように動いている。


「…………?」


 右肩。


 痺れがない。


 左脚。


 感覚が戻っている。


 脇腹を焼いていた痛みも。


 左肩を刺していた痛みも。


「おい……」


 消えている。


 今まで。


 バルガスの身体を蝕んでいた毒が。


 全て。


「しししっ……」


 セトが。


 笑った。


「あぁ……」


 蠍の尾をゆっくりと引き抜く。


「間違えて……解毒剤を入れてしまいましたか」


「…………」


 バルガスが。


 セトを見る。


「お前……」


「ししし……」


「なんのつもりだ……」


 セトは答えない。


 ただ。


 傷だらけの身体で。


 笑っている。


「手元が……」


 セトが。


 自分の尾を見る。


「いや……尻尾が、狂ってしまったみたいだ」


「…………」


「早く」


 赤紫色の瞳が。


 バルガスを見る。


「先に行け」


「は?」


 バルガスが眉を寄せる。


「一体……なんのつもりで――」


「…………」


 セトの蠍の尾が。


 ゆっくりと持ち上がる。


「おい?」


 高く。


 さらに高く。


「何して――」


「⁉︎」


 ――ズブッ。


 毒針が。


 セト自身の腹を貫いた。


「おい!!」


「がっ……!」


 セトの口から。


 血が溢れる。


「何やってやがる!!」


 バルガスが駆け寄る。


 だが。


 セトの膝が。


 先に崩れた。


「し……」


 血に濡れた口元が。


 僅かに笑う。


「しし……」


「おい! しっかりしろ!」


「セヴェル……」


「…………」


「すまない……な……」


 それを最後に。


 セトの身体から。


 力が抜けた。


「おい!」


 バルガスが肩を掴む。


「おい!!」


「…………」


 返事はない。


 蠍の尾から力が失われ。


 黒紫色の甲殻が。


 光となって消えていく。


 《星纏》が解け。


 そこに残ったのは。


 動かなくなった一人の男。


「…………」


 バルガスは。


 しばらく何も言わなかった。


 やがて。


 軍服の外套へ手を掛ける。


 脱ぎ。


 セトの身体へ。


 静かに掛けた。


「…………」


 立ち上がる。


 その横では。


 肉体を失ったソラティオが。


 再び淡い光となって寄り添っていた。


「……馬鹿野郎め」


 バルガスは。


 それ以上。


 何も言わなかった。

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