人馬一体②
――ドン!!
ソラティオの蹄が。
石床を蹴る。
「っ!」
セトの正面へ。
一気に迫る。
――ビュン!!
《毒吻》。
真っ直ぐ。
ソラティオの顔を狙う。
「させるかぁ!」
バルガスが《炎駒》を振るう。
――ガァン!!
刃の腹で。
鞭を弾く。
そのまま。
「《火衝》!!」
左掌。
炎が炸裂する。
――ボォン!!
「ぐっ!」
セトが腕で顔を庇る。
視界が。
一瞬。
炎に塞がれた。
「ソラティオ!」
――ヒヒィン!!
その隙に。
真横を駆け抜ける。
――ブォン!!
《炎駒》。
横薙ぎ。
「くっ!」
セトが身体を反らす。
刃は届かない。
だが。
赤い軌跡が残る。
「…………!」
ソラティオは止まらない。
そのまま大きく旋回。
「しし……!」
セトが振り返る。
もう。
次が来る。
「《火撃》!!」
――ボッ! ボッ! ボッ!
三つの火球。
「邪魔です!」
――ビュン!!
《毒吻》が横一文字に走り。
二つを弾く。
残る一つへ。
蠍の尾。
――バン!!
火球が砕けた。
その瞬間。
「おらぁ!!」
「⁉︎」
炎の向こう。
ソラティオ。
その背で。
バルガスが《炎駒》を大きく振り上げている。
――ブォン!!
「くっ!」
セトが横へ跳ぶ。
また。
赤い軌跡。
「……っ!」
着地。
その足元にも。
先ほど刻まれた軌跡がある。
「しし……!」
「《爆跡》!」
――ドォォン!!
「ぐっ!!」
爆炎。
セトの身体が前へ押し出される。
だが。
その先。
「ダッハハハハ!!」
「!」
ソラティオが。
正面から突っ込んでくる。
「《爆歩》!!」
――ドン!!
馬上。
バルガスの足元で炎が弾ける。
前へ。
さらに。
勢いを乗せる。
「おおおおぉぉ!!」
《炎駒》の突き。
「ちっ!」
――ガギィン!!
蠍の尾が。
穂先を横から弾く。
だが。
完全には逸らせない。
「ぐっ……!」
刃が。
セトの肩口を掠める。
――ザシュッ!!
「しっ……!」
初めて。
《星纏》したセトの甲殻へ。
傷が走った。
「当たったなぁ!」
「……調子に」
セトの瞳が細くなる。
「乗らないでください!」
――シュッ!!
頭上。
蠍の尾が。
ソラティオへ振り下ろされる。
「!」
バルガスが手綱もない首元へ身体を伏せる。
「右だ!」
――ヒヒン!!
ソラティオが。
横へ大きく跳ねる。
――ドゴッ!!
毒針が。
床へ突き刺さった。
「…………!」
「甘ぇ!」
すれ違いざま。
《炎駒》が走る。
――ブォン!!
「くっ!」
セトの脇腹。
僅かに甲殻が裂ける。
「…………」
一撃。
そして。
駆け抜ける。
「しし……」
セトが。
ゆっくりと振り返る。
遠ざかっていくソラティオ。
「なるほど……」
肩。
脇腹。
二箇所に刻まれた傷を見る。
「あなたの足が動かなくとも」
セトの視線が。
ソラティオへ向く。
「その精霊が動けば問題ない」
「そういうこった!」
大きく旋回し。
再びバルガスが戻ってくる。
「なら――」
セトが。
《毒吻》を下げた。
「その馬を止めればいい」
「…………」
バルガスの目が細くなる。
「ししし……!」
セトが。
《毒吻》を床へ叩きつけた。
――バシィン!!
「?」
鞭の表面から。
赤紫色の液体が飛び散る。
床。
壁。
砕けた瓦礫。
至る所へ。
毒が付着していく。
――ジュウウウ……。
白い煙が。
ゆっくりと立ち上る。
「…………」
ソラティオが。
僅かに速度を落とした。
「ダッハハハハ!」
「……何がおかしいのです?」
「いや」
バルガスが。
《炎駒》を肩へ担ぐ。
「俺じゃなくて」
ソラティオの首を。
軽く叩く。
「こいつ狙い始めたってことはよぉ」
「…………」
「効いてるってことだろ?」
「しし……」
セトの口元が引きつる。
「言ってくれますね」
毒の煙が。
徐々に。
戦場へ広がっていく。
「このまま走り続ければ、その精霊にも毒が回る」
「…………」
「いつまで駆け回れますか?」
「さぁなぁ!」
バルガスが笑う。
「聞いてみるか?」
ソラティオの耳が。
ピクリと動く。
「まだ行けるか!」
――ヒヒィィィン!!
即答。
「ダッハハハハ!!」
バルガスが。
《炎駒》を構える。
「だそうだ!」
「…………!」
ソラティオが。
再び駆け出す。
毒の付着した床。
その僅かな隙間を。
縫うように。
――カッ!
――カッ!
――カッ!
「なっ……」
セトの瞳が揺れる。
踏まない。
毒を避けている。
「こいつぁ馬だぞ?」
バルガスが笑う。
「足元見るのは俺より上手ぇ!」
――ドン!!
加速。
「くっ!」
セトが《毒吻》を振るう。
だが。
「左!」
ソラティオが逸れる。
鞭が空を切る。
「右!」
蠍の尾。
それも。
躱す。
「おらぁ!!」
――ブォン!!
《炎駒》が。
また一つ。
赤い軌跡を刻む。
「…………!」
セトが。
そこで気づく。
一本。
二本。
三本。
四本。
すでに。
戦場の至る所へ。
赤い軌跡が残っている。
「まさか……」
「気づいたか?」
バルガスが。
ニッと笑う。
「お前が毒を撒いてる間にもよぉ」
ソラティオが大きく旋回する。
赤い鬣。
《炎駒》の赤布。
二つが。
炎のように靡く。
「こっちも仕込みは終わってんだよ!」
「…………!」
前。
後ろ。
左右。
斜め。
セトを取り囲むように。
無数の赤い軌跡。
「しし……」
セトの頬を。
汗が流れた。
「《爆跡》で、一斉に……?」
「いや」
「あ?」
バルガスが。
《炎駒》を高く掲げる。
炎が。
身体から噴き上がった。
「《猛火》!!」
――ボォォッ!!
「…………!」
炎が。
《炎駒》へ流れ込む。
刃の赤い亀裂。
柄に巻かれた赤布。
そして。
戦場へ残された全ての軌跡が。
一斉に。
眩いほど赤く輝き始める。
「ただ爆発させるだけじゃ――」
バルガスが笑う。
「勿体ねぇだろ?」
「…………!」
ソラティオが。
前脚を高く掲げる。
――ヒヒィィィン!!
その嘶きと共に。
バルガスが《炎駒》を振り下ろした。




