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精霊達の忘れ物  作者: 粉砕のじゅんこ
星詠国家ルミナス クーデター編

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人馬一体

 その名を呼んだ瞬間。


 馬の精霊を包んでいた淡い光が、大きく揺らいだ。


「……?」


 セトが目を細める。


 光が消えたわけではない。


 逆だ。


 ぼんやりと透けていたソラティオの輪郭が。


 少しずつ。


 濃くなっていく。


 脚。


 胴。


 首。


 光でしかなかった身体へ。


 確かな厚みが生まれていく。


「まさか……」


 セトの笑みが消えた。


 炎のように揺れていた鬣は、深い赤へ。


 身体を覆う毛並みは。


 焼けた鉄を思わせる暗い赤褐色へ変わっていく。


 そして。


 四本の脚。


 その先に形作られた黒い蹄が。


 ――カツン。


 石床を叩いた。


「…………!」


 音。


 今までのソラティオにはなかった。


 床には。


 はっきりと影まで落ちている。


「精霊に……肉体を?」


「ダッハハハハ!」


 バルガスがソラティオの首を叩く。


 ――パンッ!


 確かな感触。


 確かな音。


「そういうこった!」


「そんなことが……」


「まぁ、長くはもたねぇけどな」


 バルガスが《炎駒》を持ち上げる。


「俺ぁまだ――」


 一度。


 ソラティオを見る。


「こいつと本当の意味で並ぶところまでは、届いてねぇ」


「…………」


「だがよ」


 ソラティオが低く鼻を鳴らす。


 ――ブルルッ。


 鼻先から。


 小さな火の粉が舞った。


「その手前くらいなら――」


 バルガスがニッと笑う。


「無理やり引っ張り出せる!」


 ――ヒヒィィィン!!


「…………!」


 轟く嘶き。


 ソラティオが前脚を高く持ち上げる。


 ――ドン!!


 黒い蹄が石床を踏み鳴らし。


 足元から炎が弾けた。


「しし……」


 セトが《毒吻》を構え直す。


「なるほど。足を毒に侵されたから、代わりに精霊へ走らせると?」


「それだけじゃねぇぞ」


「あ?」


 バルガスがソラティオの鬣を掴む。


 そして。


 一息にその背へ跨った。


 《炎駒》を脇へ構える。


 柄から垂れる赤い布が。


 ソラティオの鬣と並んで靡いた。


「元々こいつはなぁ――」


 バルガスが《炎駒》を軽く振るう。


 ――ブォン!!


 赤い軌跡が。


 空中へ一本刻まれる。


「俺一人で振り回すための霊器じゃねぇんだよ!」


「…………!」


「走れ――ソラティオ!」


 ――ヒヒィン!!


 蹄が石床を蹴る。


 ――ドン!!


「⁉︎」


 速い。


 巨体の馬が。


 一瞬でセトとの距離を潰した。


「ちっ!」


 ――ビュン!!


 《毒吻》が走る。


 狙いはソラティオの前脚。


「跳べ!」


 ――ダン!!


 ソラティオが高く跳ね上がる。


 鞭が。


 蹄の下を通り過ぎた。


「おらぁ!!」


 馬上から。


 《炎駒》を振り下ろす。


 ――ブォン!!


「くっ!」


 セトが横へ逃れる。


 刃は外れた。


 だが。


「!」


 赤い軌跡が。


 セトの真横へ残る。


「《爆跡》!!」


 ――ドォォン!!


「ぐっ!」


 爆風に押され。


 セトの身体が横へ流れる。


「まだだぁ!」


 ソラティオは止まらない。


 そのままセトの横を駆け抜ける。


 ――カッ! カッ! カッ! カッ!


 蹄の音が。


 戦場へ響き渡る。


 バルガスが身体を捻り。


 走りながら《炎駒》を横へ振るう。


 ――ブォン!!


 一本。


 さらに。


 ソラティオが大きく旋回。


 再びセトへ迫る。


「《火撃》!!」


 ――ボッ! ボッ! ボッ!!


「ししっ!」


 セトが一発目を躱す。


 二発目を《毒吻》で叩き。


 三発目を蠍の尾で弾いた。


「この程度――」


「当てる必要ねぇんだよ!」


「⁉︎」


 火球へ意識を向けた一瞬。


 ソラティオはすでに。


 セトの背後へ回り込んでいた。


「おらぁ!!」


 ――ブォン!!


 また一本。


 赤い軌跡。


「…………!」


 セトが周囲を見る。


 一本。


 二本。


 三本。


 先ほどまでとは違う。


 軌跡が増える速度が。


 あまりにも速い。


 バルガス一人なら。


 《炎駒》を振るったあと、自ら次の位置まで移動しなければならない。


 だが。


 今は。


 走るのはソラティオ。


 バルガスはその背で。


 ただ。


 振るえばいい。


「しし……!」


 セトの表情から。


 再び余裕が消えていく。


「さぁて」


 バルガスが。


 《炎駒》を肩へ担ぐ。


 赤い布が。


 走る風を受け、大きく靡いた。


「こっからが――」


 ソラティオが地面を蹴る。


 ――ドン!!


「俺達の戦い方だ!!」

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