星の力
「あなた方ガイストの人間には、あまり馴染みがないでしょうね」
「あ?」
セトがゆっくりと息を吐く。
「星に選ばれた者が、その力を身に纏う」
「星に……?」
「えぇ」
セトが顔を上げる。
「――《星纏》」
その瞬間。
足元から紫色の光が広がった。
「《嚼毒》」
――ゾワッ。
「…………!」
光が。
セトの身体を這い上がっていく。
最初に変わったのは。
両腕。
手首から肘へ。
そして肩へ向かって。
黒紫色の甲殻が浮かび上がる。
硬質な表面には、赤紫色の細い紋様。
まるで血管のように枝分かれしながら。
脈打つたび。
毒々しい光を放っていた。
「ほぉ……」
バルガスが目を細める。
変化は止まらない。
首筋。
頬。
薄い黒紫色の紋様が、セトの皮膚へ浮かび上がっていく。
そして。
瞳。
白目が僅かに暗く染まり。
虹彩は鮮やかな赤紫へ変わる。
「ししし……」
セトの口元が吊り上がる。
吐息と共に。
薄紫色の靄が漏れた。
「…………?」
煙。
ではない。
靄が床へ触れた瞬間。
――ジュッ。
微かな音と共に消えていく。
「毒か」
「ご名答」
そして。
最後に。
セトの腰の辺りから、黒紫色の光が伸び始めた。
一節。
二節。
三節。
甲殻に覆われた節が連なり。
太く。
長く。
ゆっくりと持ち上がっていく。
「…………」
バルガスが見上げる。
セトの頭上。
大きく弧を描くそれは。
紛れもなく。
蠍の尾。
先端には。
鋭く尖った毒針。
その表面を。
赤紫色の液体が濡らしている。
ぽたり。
一滴。
床へ落ちた。
――ジュッ!!
「おぉ……」
石床から白い煙が上がる。
「ダッハハハハ!!」
突然。
バルガスが豪快に笑った。
「…………?」
「いいじゃねぇか!」
《炎駒》を肩から下ろす。
柄に巻かれた赤い布が。
熱を孕んだ風に大きく靡いた。
「それが星詠みの本気ってやつか!」
「ししし……」
セトが《毒吻》を持ち上げる。
すると。
鞭の表面へ。
赤紫色の液体がじわりと滲み始めた。
「えぇ」
背後で。
蠍の尾がゆらりと揺れる。
「ここからが、本番ですよ」
「上等!!」
――ダン!!
先に動いたのは。
バルガス。
《炎駒》を横薙ぎに振るう。
――ブォン!!
赤い軌跡が空中へ刻まれる。
「《爆跡》!!」
――ドォォン!!
爆炎が広がった。
「…………」
だが。
「?」
バルガスの眉が動く。
いない。
「こちらですよ」
「⁉︎」
声。
横。
――ビュン!!
「ぐっ!」
《毒吻》が。
バルガスの肩を掠める。
――ザシュッ!!
「ちっ!」
即座に《炎駒》を振るう。
だが。
――ザッ!!
セトはすでに離れていた。
「速ぇな……!」
「ししし!」
今度は後ろ。
――ビュン!!
「おっと!」
バルガスが身体を捻る。
《毒吻》が胸元を通過する。
「…………」
避けた。
だが。
ピリッ。
「……あ?」
右肩。
先ほど鞭が掠めた場所が。
熱い。
次の瞬間。
指先まで。
痺れが走った。
「……なるほどな」
バルガスが右手を開き。
もう一度握る。
「さっきまでの毒とは、別物ってわけか」
「ししし……」
セトが《毒吻》を揺らす。
「《嚼毒》は毒を喰らい、毒を理解する」
「…………」
「そして」
背後の尾が持ち上がる。
「理解した毒は――私のものとなる」
――シュッ!!
「!」
毒針。
バルガスが《炎駒》を横へ構える。
――ガギィン!!
「ぐっ!」
衝撃。
巨大な身体が僅かに後退する。
「ダッハハハハ!」
それでも。
バルガスは笑った。
「いいなぁ!」
「あ?」
「やっと面白くなってきやがった!」
《炎駒》を強く握る。
「来いよ!」
赤い軌跡が。
バルガスの周囲に揺らめく。
「その《星纏》ってやつ!」
「ししし……」
セトが笑う。
《毒吻》。
そして。
頭上へ持ち上がる蠍の尾。
「その強がり」
毒針の先から。
紫色の液体が滴る。
「いつまで続くか、見せてもらいましょう」
――ダン!!
二人が。
再び激突した。




