山を鎮める
――ドゴォォォン!!
「がっ……!!」
《崩槌》がドルガの脇腹へ叩き込まれる。
蓄積していた《脆化》。
そこへ渾身の一撃が重なる。
「ぐ……ぅ……!」
ドルガの巨体が大きく揺れる。
踏ん張ろうと足に力を込める。
「…………」
だが。
もう身体がついてこない。
「ぐっ……」
膝が落ちる。
そのまま。
――ドサッ。
ドルガが倒れた。
「…………」
動かない。
「はぁ……はぁ……」
ログがその場で《崩槌》を杖代わりにする。
「終わった……」
肩で大きく息をする。
「やったぜ……」
ゆっくりと斜め後ろを見る。
「…………」
アルゴスがそこにいる。
「へっ……」
ログが笑い。
拳をアルゴスへ向ける。
「ま……」
「⁉︎」
微かな声。
ログが振り返る。
「姫様! 目ぇ覚ましたのか!」
ナーラの瞼が僅かに開いている。
ログが駆け寄ろうとする。
「ま……だ……」
「?」
まだ。
「何が――」
その時。
ログの身体に大きな影が重なる。
「…………⁉︎」
背後。
「嘘……」
振り返る。
「――ぐっはぁ!!」
――ドゴォン!!
巨大な手がログの身体を薙ぎ払った。
――バキィッ!!
「がっ!!」
壁まで吹き飛ばされ。
背中から叩きつけられる。
「ごっほ……!」
床へ落ちる。
「がっ……は……!」
息ができない。
吸おうとしても。
空気が入ってこない。
代わりに口から血が溢れる。
「ごほっ……ごっ……!」
肺に血が溜まっている。
「…………」
ゆっくりと。
大きな影が立ち上がる。
「……まだ、終わってはいない!」
「…………っ」
「今度こそ……終わりだ……」
ドルガがナーラへ向かって歩き出す。
「や……め……ろ……」
「…………」
ドルガの足が止まる。
「申し訳ない。ナーラ姫」
拳を握る。
「我が一族のため……」
「やめ……」
ナーラが必死に声を絞り出す。
「た……つ……な……」
「…………?」
ドルガの眉が動く。
立つな。
誰に。
「…………」
ゆっくりと振り返る。
「…………!」
そこには。
《崩槌》を握り。
仁王立ちするログがいた。
「…………」
口から血が流れている。
呼吸すらまともにできていない。
それでも。
立っている。
「……お前も大概だな……」
「…………」
ログが血を吐き捨てる。
「言ったろうが……」
斜め後ろ。
アルゴスへ視線を向ける。
「大切な女の前で……倒れねぇって」
「……!」
ナーラの目が僅かに見開かれる。
また。
あの言葉。
「…………」
ドルガがしばらくログを見つめる。
「お前、名は」
「あぁ……?」
「名を聞いている」
「…………」
ログが《崩槌》を肩へ担ぐ。
「ログ・スミスマン」
「…………」
ドルガがゆっくりと頷く。
「俺はドルガ・タウルス」
「知ってるよ……」
「そうか」
僅かに。
ドルガが笑う。
「ログ」
「なんだよ」
「お前とは、他の出会い方をしたかった」
「…………」
「……よき友になれただろう」
「どーだかな……」
ログも口元を上げる。
「俺、友達すくねぇからよ」
「ふっ!」
「へっ!」
二人が笑う。
ほんの一瞬だけ。
戦いの中に静かな時間が流れる。
「ログ」
「なんだよ」
「お前には俺の全力をぶつける」
「…………」
ドルガがゆっくりと構えを解く。
「昔、ルミナスで大雨が降った」
「…………」
「山が崩れ、大量の土砂が王宮へ向かった」
「……それが?」
「俺は――」
ドルガが両手を見る。
「それを止めた」
「…………」
ログの表情から笑みが消える。
「今から、その時に使った技をお前に使う」
「…………」
「へっ!」
ログが《崩槌》を構える。
「上等だ……」
「…………」
ドルガが僅かに目を伏せる。
「できれば……死ぬな……」
「…………」
ログは何も答えない。
ただ。
《崩槌》を強く握る。
「…………」
ドルガが腰を落とす。
両腕を大きく左右へ広げ。
身体を前へ傾ける。
その姿は。
まるで。
巨大な牛の角。
「…………!」
床が軋む。
ドルガの足に力が込められる。
「行くぞ……ログ!」
「来やがれ……ドルガ!」
――ドン!!
「《鎮嶽断流》!!」
ドルガが。
大地を蹴り砕いた。




