勝ち筋
ドルガが脇腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ぐっ……」
「まだやんのかよ」
「当然だ」
「……そうかよ」
ログが《崩槌》を肩へ担ぐ。
ドルガの脇腹には《脆化》が蓄積している。
もう一発。
あそこへ叩き込めば。
「…………」
ドルガも分かっている。
だからこそ。
あそこだけは絶対に喰らわない。
「来い」
「言われなくても!」
――ダン!!
ログが踏み込む。
振り下ろし。
――ガン!!
ドルガが柄へ腕を当て、軌道を逸らす。
すぐに。
拳が返ってくる。
「くっ!」
ログが顔を傾ける。
――ブォン!!
拳が頬を掠める。
「おらっ!」
《崩槌》を引き戻し、横薙ぎ。
「…………!」
ドルガが大きく後ろへ下がる。
「ちっ!」
やっぱり。
脇腹への攻撃だけは徹底して避ける。
「…………」
なら。
避けられなくすればいい。
――ダン!!
今度はドルガが踏み込んだ。
「!」
拳。
速い。
――ドゴッ!!
「がっ!」
ログの肩へ突き刺さる。
身体が大きく傾く。
「ぐっ……!」
それでも。
倒れない。
「まだだ!」
ドルガが追う。
二発目。
「くそっ!」
ログが《崩槌》の柄で受ける。
――ガン!!
「ぐぅっ!」
腕が痺れる。
押し込まれる。
「…………」
ドルガがさらに踏み込む。
「終わりだ」
「…………っ!」
拳を引く。
来る。
「…………」
ログが。
ちらりと斜め後ろを見る。
アルゴス。
淡い光を纏った赤茶色の牛が。
じっとこちらを見ている。
「…………」
ログの口元に。
笑みが浮かぶ。
「よく……見とけ」
「?」
ドルガの眉が動く。
だが。
ログが見ているのは。
その後ろ。
「俺がこいつを……」
《崩槌》を握る手に力を込める。
「ぶっ飛ばすからよ!」
「…………」
アルゴスの耳が。
ぴくりと動いた。
「…………?」
さらにその後ろ。
床に倒れているナーラの瞼も。
僅かに動く。
今の言葉が。
朦朧とした意識の中へ届く。
『よく……見とけ』
「…………」
また。
自分に言った。
「…………?」
ナーラが。
ぼんやりとログを見る。
さっきも。
大切な女の前で倒れるわけにはいかないと。
そう言っていた。
そして今度は。
自分に見ていろと。
「…………」
ナーラの頬が。
僅かに赤くなる。
やはり。
俺のことを知っているのか?
「…………」
だが。
何度考えても。
目の前の男に覚えはない。
そもそも。
名前すら知らない。
「…………」
ナーラには見えない。
自分とログの間で。
アルゴスがじっと主人を見つめていることなど。
当然。
知る由もなかった。
「…………!」
ドルガの拳が。
動く。
――ブォン!!
ログの顔面へ。
「おらぁ!!」
ログも動く。
だが。
《崩槌》は振らない。
「!」
拳を。
身体を捻って躱す。
そのまま。
ドルガの懐へ。
「何を――」
「捕まえた!」
ログの左腕が。
ドルガの身体へ回る。
「…………⁉︎」
抱きつくように。
身体を密着させる。
「離せ!」
「誰が離すかよ!」
ドルガがログを引き剥がそうとする。
力なら。
圧倒的にドルガが上。
「ぐぅぅぅ!!」
ログの腕が。
少しずつ開いていく。
「くっ……そがぁ……!」
長くは持たない。
でも。
一瞬でいい。
「…………!」
右手。
《崩槌》を。
短く持つ。
大きく振る必要なんてない。
狙う場所は。
すぐ目の前。
ドルガの脇腹。
「てめぇ……!」
ドルガが気づく。
「離せ!」
「もう遅ぇ!」
ログが。
《崩槌》を引く。
ほんの僅かな距離。
そこから。
全力で。
「こいつで――」
脇腹へ。
叩き込む。
「終わりだぁぁぁ!!」




