迷子②
「とりあえず戻る?」
「どこへ?」
「さっきの階段」
「どの階段だい?」
「…………」
「…………」
「いっぱいあったね」
「あぁ。いっぱいあったね」
アルトが。
頭を掻く。
「王宮って広いなぁ……」
「今更感心するところじゃない!」
「でもさ」
アルトが。
周囲を見渡す。
「さっきまでと全然違わない?」
「…………」
セブランも。
辺りを見る。
人の気配がない。
戦う音も。
叫び声も。
聞こえてこない。
「確かに……静かすぎるね」
「こっちには誰も来てないのかな?」
「可能性はある」
セブランが。
壁へ手を触れる。
「それに、この辺りは……」
「?」
「いや」
手を離す。
「まずは道を探そう」
「うん」
二人が。
再び歩き出す。
今度は。
走らない。
曲がり角へ来るたび。
先を確認してから進んでいく。
「…………」
「…………」
しばらく歩いて。
アルトが。
横目でセブランを見る。
「セブランさんってさ」
「なんだい?」
「医者なのに結構動けるよね」
「…………」
「さっきも普通に攻撃避けてたし」
「医者が全員ひ弱だと思っているのかい?」
「そういうわけじゃないけど」
アルトが。
少し考える。
「薬撒いて逃げるの上手いなって」
「褒めてる?」
「褒めてる!」
「そうは聞こえないね」
「なんで?」
「君はもう少し言葉を選んだ方がいい」
「よく言われる」
「だろうね」
「…………」
アルトが。
セブランを見る。
「セブランさんは?」
「何がだい?」
「なんで医者になったの?」
「…………」
セブランの足が。
ほんの僅かに遅くなる。
「急だね」
「だって暇だし」
「姫君の命がかかっているんじゃなかったのか?」
「急いではいるよ!」
「迷っているけどね」
「それは……」
アルトが。
目を逸らす。
「セブランさんも悪い」
「まだ言うのかい?」
「半分ずつ」
「君が七割だ」
「じゃあ六割」
「交渉するところじゃない」
「…………」
「…………」
再び。
二人の足音だけが響く。
「医者になった理由か……」
セブランが。
前を向いたまま呟く。
「死なせたくなかったから、かな」
「誰を?」
「人を」
「…………」
「病気であれ、怪我であれ」
セブランが。
自分の手を見る。
「助けられる命なら、助けたい」
「…………」
「それだけだよ」
「そっか」
「随分あっさりしているね」
「だって」
アルトが笑う。
「いい理由じゃん」
「…………」
セブランが。
アルトを見る。
「それだけ?」
「うん」
「もっと何か聞かないのかい?」
「聞いてほしいの?」
「いや」
「じゃあ聞かない」
「…………」
セブランが。
小さく息を吐く。
「君は変な奴だね」
「また言われた」
「それもよく言われるのか」
「結構」
「納得だ」
「なんだよそれ」
その時。
「…………!」
アルトが。
突然足を止めた。
「今度はなんだい?」
「しっ」
壁の向こう。
微かに。
足音。
「…………」
セブランも。
口を閉じる。
近づいてくる。
一人じゃない。
何人も。
「また部族の人達かな」
「おそらく」
「どうする?」
「戻る」
「了解」
二人が。
来た道を振り返る。
だが。
――ダダダダッ!!
「…………!」
そちらからも。
足音。
「挟まれた?」
「みたいだね」
「戦う?」
「できれば避けたい」
「俺も」
アルトが。
辺りを見回す。
「どっか……」
扉。
ない。
窓も。
ない。
「…………」
「アルト」
「待って」
足音が。
どんどん近づいてくる。
「…………!」
アルトが。
壁際を見る。
「セブランさん!」
「?」
「あそこ!」
細い通路。
一人が通れるほどの。
薄暗い道が伸びている。
「行くよ!」
「待て! どこへ繋がっているか――」
「ここにいたら見つかる!」
「……それもそうだ!」
二人が。
細い通路へ駆け込む。
すぐに。
アルトが壁へ身体を寄せる。
「…………」
「…………」
息を潜める。
直後。
――ダダダダッ!!
大勢の足音が。
すぐ近くを通り過ぎていった。
「…………」
「…………」
少し待つ。
音が。
遠ざかっていく。
「ふぅ……」
アルトが。
息を吐く。
「危なかった」
「あぁ」
「戻ろう」
「待て」
「?」
セブランが。
通路の奥を見ている。
「…………」
暗い。
先は見えない。
「どうしたの?」
「この道……」
「知ってる?」
「いや」
「じゃあ戻ろうよ」
「…………」
セブランが。
僅かに考える。
「さっきの連中が戻ってくる可能性もある」
「あぁ……」
「それに」
通路の先を見る。
「王宮の別の場所へ繋がっているなら、迂回路として使えるかもしれない」
「じゃあ行ってみる?」
「そうしよう」
「よし!」
「走るなよ」
「分かってるって」
アルトが。
薄暗い通路へ足を踏み入れる。
「…………」
その後ろを。
セブランがついていく。
「そういえば」
「今度はなんだい?」
「ログ達の場所って、こっちで合ってるのかな」
「…………」
「…………」
「今それを聞くのかい?」
「気になって」
「私に分かるわけないだろう!」
「だよね!」
「君は本当に……!」
二人の声が。
薄暗い通路の奥へ。
遠ざかっていった。




