迷子
◇
王宮の廊下を。
二人の足音が響く。
「セブランさん! こっち!」
「待て!」
後ろを走るセブランが。
アルトへ叫ぶ。
「君は王宮の構造を知っているのか!」
「知らない!」
「ならなぜ先頭を走っている!」
「なんとなくこっちな気がする!」
「気で走るな!」
二人が。
廊下の角を曲がる。
「…………!」
アルトが。
急停止した。
「どうし――」
「しっ!」
セブランの口を。
慌てて手で塞ぐ。
「むぐっ⁉︎」
「静かに!」
「…………!」
廊下の先。
何人もの男達が。
走っていく。
「…………」
アルトが。
壁から僅かに顔を出す。
「あれ……」
服装が違う。
さっき戦ったタウルス族とも。
違う。
男が二人一組になり。
腹のあたりには鎖が巻かれている。
「別の部族?」
「……おそらくね」
セブランの口から。
アルトが手を離す。
「ぷはっ……!」
「ごめん」
「いきなり口を塞ぐな!」
「見つかるだろ!」
「君が騒がなければね!」
「セブランさんも騒いでるじゃん!」
「…………」
「…………」
二人が。
同時に口を閉じる。
「…………」
もう一度。
廊下を見る。
男達の姿は。
既に消えていた。
「行った?」
「みたいだね」
「よし」
アルトが。
廊下へ出ようとする。
「待て」
「?」
セブランが。
アルトの肩を掴む。
「今の道はやめた方がいい」
「なんで?」
「彼らがどこへ向かったか分からない」
「…………」
「戦闘になれば、また足止めされる」
「あぁ……」
アルトが。
ロイドと別れた方向を見る。
「一時間……」
「そうだ」
セブランの表情が。
僅かに険しくなる。
「私が抑えられるのは、おそらくそれくらいだ」
「じゃあ急がないと」
「あぁ」
「別の道!」
「だから君が先に行くな!」
二人が。
反対側へ走り出す。
階段を下り。
長い廊下を抜ける。
その先。
「止まって!」
「今度はなんだ!」
――ドドドドッ!!
「…………」
「…………」
目の前を。
下半身が発達した男達が横切っていく。
また。
違う。
先ほどとは別の服装。
持っている武器も違う。
「また別の部族……?」
「みたいだね」
「何人いるんだよ……」
アルトが。
通路の陰へ身体を隠す。
「王宮の中だけでこれか……」
セブランが。
小さく呟く。
「…………」
アルトが。
横目で男達を見る。
戦えば。
倒せない相手ではない。
でも。
「行こう」
「戦わないのかい?」
「時間ないんだろ?」
「…………」
「それに」
アルトが。
走り去っていく人達を見る。
「別に戦わなくていいなら、戦わなくていいじゃん」
「…………」
「行くよ」
「……あぁ」
二人が。
また別の通路へ入る。
「…………」
セブランが。
前を走るアルトの背中を見る。
「君は……」
「?」
「いや」
「何?」
「何でもない」
「気になるだろ!」
「前を見ろ!」
「見てるよ!」
「なら止まれ!」
「え?」
――ザッ!!
「うおっ!」
セブランに。
襟を掴まれる。
目の前。
大きな広間。
「…………」
そこにも。
人。
人。
人。
先ほど見た者達とは。
また違う。
複数の部族が。
広間を行き交っている。
「…………」
「…………」
アルトが。
そっと後ろへ下がる。
「無理だね」
「無理だな」
「戻ろう」
「そうしよう」
二人が。
静かに引き返す。
来た道を戻り。
また別の階段へ。
「…………」
「…………」
走る。
曲がる。
隠れる。
戻る。
また走る。
何度も。
何度も。
戦闘を避けながら。
王宮の中を進んでいく。
そして。
「…………」
「…………」
二人が。
足を止める。
「セブランさん」
「なんだい?」
「ここ……」
アルトが。
周囲を見る。
静か。
さっきまで。
至る所から聞こえていた怒号も。
足音も。
ここまでは届いてこない。
「どこ?」
「…………」
セブランが。
ゆっくりとアルトを見る。
「君が先頭を走っていただろう」
「いや、セブランさんも途中で道選んでたじゃん!」
「君が自信満々に走るから、知っているのかと思ったんだ!」
「最初に知らないって言っただろ!」
「…………」
「…………」
二人が。
顔を見合わせる。
「迷った?」
「……迷ったね」
「…………」
「…………」
「どうしよう」
「それを今から考えるんだ!」
セブランの声が。
誰もいない廊下へ響いた。




