込み上げる怒りと笑み
◇
時は。
アルト達が王宮へ向かう頃。
「俺には――」
ガオンが大穴へ。
一歩踏み出す。
「妹の方が大事だ!」
そのまま。
外へ飛び出した。
落ちる。
腕の中にはジル。
もう片方には侍女。
「ぐぅぅぅぅ!!」
二人を強く抱き寄せ。
自分の身体で庇う。
地面が。
一気に迫る。
――ドン!!
「ぐっ!!」
凄まじい衝撃が。
ガオンの両脚を襲う。
「…………っ!」
膝をつきながらも。
腕の中の二人だけは離さない。
「ジル!」
すぐに。
妹の顔を覗き込む。
「……無事か」
「すぅ……すぅ……」
「…………」
小さな寝息。
ガオンの表情が。
僅かに緩んだ。
「よかった……」
次に。
侍女を見る。
「おい! 大丈夫か!」
「…………」
返事はない。
口から泡を吹き。
完全に目を回している。
「…………」
ガオンが。
そっと鼻元へ手を近づける。
「生きてるか……」
息はある。
ひとまず。
二人とも無事。
「…………」
ガオンが周囲を。
見渡す。
「これからどうする……」
脳裏に。
先ほどのリシェルの言葉が蘇る。
『裏切り者!』
そして。
『ナーラ様まで巻き込んで!』
「裏切り者……?」
何のことだ。
「父上や姉上はどうなった?」
それに。
自分達を襲った連中。
俺。
姉上。
セヴェル。
それぞれを狙うように。
突然現れた。
「…………」
分からない。
「考えても仕方ないな」
ガオンが。
ジルと侍女を背負い直す。
「王宮に行けば、何か分かるだろう」
歩き出す。
だが。
進むにつれて。
ガオンの表情が変わっていく。
「…………」
焼けた家。
崩れた壁。
砕けた道。
王宮近くの家々が。
至る所で壊されている。
遠くからも。
いくつもの黒煙が上がっていた。
「……まさか」
足が止まる。
「反乱?」
リシェルは。
自分が裏切ったと。
誰かに騙されたのか?
「いや……」
ガオンが。
煙の上がる街を見る。
「ヴィルネ族だけで、こんな大規模なことにはならないはずだ」
王宮周辺だけじゃない。
離れた場所からも。
火の手が上がっている。
戦っているのは。
一ヶ所や二ヶ所ではない。
「これは……」
ガオンの目が。
細くなる。
「いくつかの部族による反乱か?」
だとすれば。
なおさら。
ジルを連れていくわけにはいかない。
「…………」
ガオンが周囲を探す。
少し進んだ先。
被害の少ない建物が見えた。
「ここなら……」
中を確認する。
人はいない。
窓も少なく。
外からも見つかりにくい。
ガオンがジルを。
ゆっくりと床へ寝かせる。
「すぅ……すぅ……」
「本当によく寝るな……」
「う……」
「?」
声。
侍女の身体が。
僅かに動いた。
「が……ガオン様……」
「目が覚めたか」
侍女が。
ゆっくりと目を開く。
「わ、私……」
自分の身体を。
恐る恐る見る。
「生きてますか……?」
「はっ!」
ガオンが笑う。
「生きてるぞ」
「よ、よかったぁ……」
侍女の身体から。
一気に力が抜ける。
「……すまないが」
「はい……?」
「またジルを頼む」
「…………」
侍女が。
ガオンを見る。
「どこへ?」
「王宮だ……」
「⁉︎」
侍女が。
勢いよく身体を起こす。
「き、危険です!」
「あぁ」
ガオンが。
眠るジルを見る。
「だからジルを頼む」
「…………」
「こいつを連れてはいけない」
侍女は。
何も言えなくなる。
「…………」
「行ってくる」
ガオンが立ち上がり。
建物の外へ向かう。
「が、ガオン様!」
「?」
振り返る。
侍女が。
真っ直ぐガオンを見ていた。
「ご武運を……」
「…………」
ガオンが。
僅かに笑う。
「……はっ!」
再び。
歩き出す。
外へ。
「…………」
燃えている。
自分の国が。
壊されている。
国を混乱させ。
ジルまで巻き込んだ。
姉上も。
父上も。
今どうなっているのか分からない。
「…………」
怒りが。
どんどん込み上げてくる。
それに呼応するように。
ガオンの体温が。
上がっていく。
熱い。
身体の奥から。
熱が溢れてくる。
「絶対に許さん……」
そう呟きながら。
崩れた家屋の間を進む。
なのに。
「…………」
ガオンの口元には。
笑みが浮かんでいた。
怒っている。
間違いなく。
腹が立っている。
それでも。
これから。
思い切り暴れられる。
そう考えると。
どうしても。
口元が緩んでしまう。
その時。
「何笑ってるガニ?」
「…………!」
聞き覚えのある声。
ガオンの足が。
止まった。




