記憶②
――キキキィン!!
「くっ……!」
レテが増殖した《射恋》を。
次々と払い落とす。
右。
左。
正面。
最後の一本を弾く。
――キィン!!
「…………!」
すぐに《水凪》を引き戻す。
今度は。
どこから来る。
「…………」
右。
いない。
左。
いない。
「ディーネ?」
傍らを泳ぐディーネが。
大きな尾鰭を揺らす。
上。
「!」
レテが顔を上げる。
でも。
そこにあったのは。
リシェルではない。
一本の《射恋》。
「増えて」
――ガキン!!
「また……!」
一本が四本へ。
頭上から降り注ぐ。
「《水壁》!」
――バシャッ!!
水の壁を。
頭上へ展開する。
――ドドドドッ!!
防ぐ。
その瞬間。
「…………!」
ディーネの尾鰭が。
今度は横へ大きく揺れた。
「っ!」
来る。
レテが《水凪》を。
横へ構える。
――ギィン!!
「くっ!」
リシェル。
指の間に挟んだ《射恋》と。
《水凪》がぶつかる。
「よく防ぎましたね」
「ディーネがいますから!」
「そうでしたね」
リシェルが。
すぐに身を引く。
「!」
追う。
いや。
「…………」
レテの足が止まった。
追っていいのか。
距離を取ったなら。
また《射恋》が来る。
でも。
追えば。
それすら読まれているかもしれない。
「…………」
その一瞬。
迷った。
「増えて」
「!」
――ガキン!!
正面。
《射恋》が増殖する。
「くっ!」
《水凪》を振るう。
――キキキィン!!
払い落とす。
でも。
視線は。
鉄杭だけを追わない。
リシェル。
どこ。
「…………!」
見えた。
《射恋》の隙間。
低い姿勢で。
こちらへ走っている。
「今度こそ!」
レテが《水凪》を。
右へ引く。
リシェルが来るのは。
左。
「…………」
最後の《射恋》。
――キィン!!
弾く。
同時に。
「はぁっ!」
左へ。
振り抜く。
「…………!」
リシェルの目が。
僅かに見開かれる。
――ギィン!!
二本の《射恋》で。
受け止める。
「読んでいましたか」
「何度も同じようにやられれば!」
レテが踏み込む。
「私だって覚えます!」
「…………!」
《水凪》の刀身が。
一気に短くなる。
押し合う力を抜き。
懐へ。
「《水撃》!」
――ドン!!
「くっ!」
掌から放った水が。
リシェルの腹へ直撃する。
身体が後ろへ。
大きく押し出された。
「まだです!」
レテが《水走》で。
一気に追う。
「《水槍》!」
《水凪》の刀身が。
細く長く伸びる。
「右肩」
「!」
リシェルが。
突き出されるより先に身体を逸らす。
「…………!」
避けられる。
でも。
「分かっています!」
「?」
レテが。
そのまま手首を返す。
伸びた刀身が。
途中から大きくしなった。
「《水鞭》!」
「…………!」
――バシィッ!!
「くっ!」
水の刃が。
リシェルの脇腹を打つ。
――ザザッ!!
床を滑り。
距離が開く。
「…………」
「…………はぁ」
レテが。
少し荒くなった呼吸を整える。
「《水槍》から《水鞭》……」
リシェルが脇腹を。
そっと押さえる。
「その繋ぎは初めてですね」
「えぇ」
「覚えました」
「…………」
「次は通じません」
「本当に……」
レテが苦笑する。
「すぐ覚えるんですね」
「それが私達の加護ですから」
リシェルが立ち上がる。
「…………」
また。
目。
あの目で。
こちらを見ている。
手首。
肩。
足。
《水凪》。
ディーネ。
全部。
見て。
覚えている。
「…………」
だったら。
もっと。
見せるしかない。
レテが《水凪》を。
ゆっくりと構える。
「まだありますよ」
「でしょうね」
「…………」
「だから楽しみなんです」
「楽しみ……?」
「あなたが次に何をするのか」
リシェルが一本の《射恋》を。
指の間から抜く。
「そして、それを私が覚えた時」
投げる。
――ヒュン!!
「次に何を見せてくれるのか」
「…………!」
「増えて」
――ガキン!!
《射恋》が。
一気に増える。
「ディーネ!」
レテの周囲へ。
水が集まる。
今度は。
ただ払わない。
「《水輪》!」
《水凪》を。
大きく横薙ぎに振るう。
――バシュッ!!
円弧状の水刃が。
増殖した《射恋》へ飛ぶ。
――キキキキィン!!
「…………!」
正面から。
まとめて弾き飛ばす。
視界が開く。
その向こう。
リシェルが。
もう走り出している。
「やっぱり!」
「…………!」
レテも前へ。
《水走》。
――バシャッ!!
互いに。
距離を詰める。
正面から。
ぶつかる。
――ギィン!!
「くっ!」
《水凪》。
《射恋》。
押し合う。
リシェルの左手が。
動く。
「左!」
「!」
今度はレテが。
先に動く。
《水凪》で右手の《射恋》を流し。
身体を沈める。
左の爪が。
頭上を通る。
「…………!」
「今度はこちらです!」
水を纏った足で。
踏み込む。
肩。
――ドン!!
「っ!」
リシェルの身体が。
僅かに浮く。
そこへ。
《水凪》。
「はぁっ!」
振り下ろす。
「…………」
リシェルが。
咄嗟に両腕を交差する。
四本の《射恋》で。
受ける。
――ガキィン!!
「くっ……!」
押す。
レテが。
さらに踏み込む。
「…………!」
リシェルの足が。
一歩下がる。
もう一歩。
「…………」
レテの目が。
僅かに見開かれる。
押している。
今度は。
自分が。
「はぁぁっ!」
力を込める。
その時。
リシェルが。
ふっと笑った。
「…………?」
「増えて」
「え?」
――ガキン!!
「っ!?」
レテの目の前。
《水凪》を受け止めていた四本の《射恋》が。
一斉に増殖した。




