襲撃
セリオが向かった先に何があるのか。
それを確かめる間もなく、アーヴェルは防衛大臣の護衛へ意識を戻した。
「隊列を整えろ。大臣を中央へ。」
ガイストの兵士とスパーナの騎士たちが素早く動き、防衛大臣を囲む。
リオネルも大臣の前へ立ち、腰に下げた剣へ手を添えた。
「こちらはお任せください、クロイツ殿。」
「お願いします、アクアリス殿。」
アーヴェルは短く答え、セリオが消えた森へ目を向ける。
レテも同じ方向を見つめていた。
「何もなければいいのですが。」
「今の状況でそれを言うな。」
ログが肩に担いだ大槌を揺らしながら、顔をしかめる。
「どうしてですか?」
「本当に何か出てきそうだろ。」
「迷信では?」
「お前が言うと洒落にならねえんだよ。」
レテが首を傾げる。
そのときだった。
街道の下から、何かが土を掻く音が響いた。
硬い金属が、石を押し退けながら近づいてくる。
アーヴェルが足元へ視線を落とした。
「全員、下がれ!」
直後。
街道が内側から弾け飛んだ。
土と砕けた石を巻き上げ、巨大な金属の塊が地中から飛び出す。
空中で折り畳まれていた六本の脚を広げると、鋭い先端を街道へ突き立てた。
蜘蛛を模した魔具だった。
黒く丸みを帯びた胴体。
節の目立つ金属製の脚。
頭部に埋め込まれた赤い硝子玉が、不規則に明滅している。
「魔具!?」
ログが肩から長い柄の先に、岩塊を思わせる分厚い槌頭が据えられている大槌
魔器《崩槌》を下ろした。
蜘蛛型魔具の胴体が左右へ開く。
内部から現れた無数の細い筒が、防衛大臣へ向けられた。
「伏せろ!」
アーヴェルが何もない空間へ手を伸ばした。
その掌へ、白い光の粒が集まっていく。
光は長い柄を作り、続いて幅広い刀身の輪郭を描いた。
光が弾ける。
アーヴェルの手に、黒鉄色の大剣が現れた。
盾のように分厚い刀身。
その先端は鋭く尖らず、片側が深く抉れ、外側へ反り返っている。
受け止め、食い込ませ、断ち切るための刃。
霊器《不落》。
アーヴェルは《不落》を両手で握り、防衛大臣たちの前へ踏み込んだ。
次の瞬間、蜘蛛型魔具から無数の金属針が放たれる。
アーヴェルは幅広の刀身を盾のように構えた。
甲高い衝突音が連続して響く。
火花が散り、弾かれた金属針が街道へ突き刺さった。
それでもアーヴェルは一歩も退かない。
一本たりとも、その背後へは通さなかった。
「大臣を動かすな!」
「承知しました!」
リオネルが防衛大臣を背に庇う。
スパーナの騎士たちも盾を重ね、その周囲を固めた。
蜘蛛型魔具の赤い目が激しく明滅する。
六本の脚が地面を蹴り、巨大な身体が宙へ跳び上がった。
鋭い脚先が、アーヴェル目掛けて振り下ろされる。
アーヴェルは《不落》でその一撃を受け止めた。
金属同士が激突し、重い音が街道を揺らす。
足元の石畳がひび割れた。
それでも、アーヴェルの身体は揺らがない。
「《鉄封》」
低い声とともに、周囲の地面が淡く光った。
黒い鉄の鎖が次々と飛び出し、蜘蛛型魔具の脚へ巻きついていく。
一本。
二本。
暴れる脚を絡め取り、地面へ強く縫い止める。
蜘蛛型魔具が身体を捻るたび、鎖が激しく軋んだ。
「ログ!」
「了解です!」
ログは《崩槌》を片手で支え、空いた手を魔具へ向ける。
「《脆化》」
土色の光が、蜘蛛型魔具の脚へまとわりついた。




