2人の族長
◇
「もう少しです!」
レテが。
負傷した兵士の。
身体を。
支える。
「ゆっくりで大丈夫です」
「あ、あぁ……すまない……」
「フィリアくん!」
「こっちは大丈夫だよー!」
フィリアが。
治療所の奥から。
手を振る。
「歩けない人から運んでる!」
「僕も手伝います!」
ユノが。
兵士を。
背負う。
「パイルさん! 穴の方は?」
「うーん」
パイルが。
地下を。
覗き込む。
「これなら……」
右腕。
《風穴》を。
地面へ。
向ける。
「もう一回かな!」
――ガシュン!!
杭が。
地面へ。
撃ち込まれる。
直後。
蓄えられた。
風。
地中で。
弾ける。
――ドン!!
土砂が。
押し退けられ。
空間が。
さらに。
広がった。
「よし!」
パイルが。
額の汗を。
拭う。
「これなら全員入れそう!」
「では、急ぎましょう」
「うん!」
その時。
「…………」
パイルの。
笑みが。
消えた。
「パイルさん?」
「…………」
レテも。
動きを。
止める。
傍ら。
淡い光。
ディーネが。
落ち着かないように。
揺れている。
「…………来ます」
「やっぱり?」
「はい」
「一人?」
「…………」
レテが。
廊下の先へ。
意識を。
集中させる。
「いえ」
「…………」
「複数です」
「そっか……」
パイルが。
治療所を。
見回す。
まだ。
全員の。
避難は。
終わっていない。
「ユノくん」
「はい」
「フィリアくんと一緒に、みんなをお願い」
「…………」
ユノが。
パイルを見る。
「パイルさんは?」
「僕はここに残るよ」
「でしたら私も」
レテが。
パイルの。
隣へ。
並ぶ。
「…………」
パイルが。
レテを見る。
「お願いできる? レテくん」
「もちろんです」
「ちょ、ちょっと待ってください」
ユノが。
二人を見る。
「二人だけで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ!」
「でも……」
「ユノくん」
パイルが。
地下を。
指差す。
「今、一番大事なのは」
負傷者達。
「この人達だから」
「…………」
「僕達が戦ってる間に、全員隠して」
「…………」
ユノが。
拳を。
握る。
「……分かりました」
「お願いね!」
「はい!」
「フィリアさん!」
「うん!」
二人が。
再び。
負傷者達の。
避難を。
始める。
「…………」
パイルと。
レテ。
二人が。
入口へ。
並ぶ。
――ザッ。
――ザッ。
足音。
もう。
はっきりと。
聞こえる。
「…………」
やがて。
廊下の。
向こう。
人影。
一人。
二人。
三人。
その後ろから。
さらに。
続く。
「やっぱり」
パイルが。
《風穴》を。
構える。
「敵みたいだね」
「…………」
レテが。
一歩。
前へ。
片手を。
伸ばす。
「――《水凪》」
淡い。
光。
レテの。
手の中。
形を。
作っていく。
鞘。
そして。
持ち手。
けれど。
そこに。
刀身は。
存在しない。
レテが。
柄を。
握る。
――スッ。
水。
集まる。
細く。
鋭く。
伸びていく。
レテの。
意思に応じ。
一本の。
刀身を。
形作った。
「ここから先へは」
水の刀身。
敵兵へ。
向ける。
「行かせません」
「僕も同じ意見!」
――ガシュン!!
《風穴》が。
音を。
立てる。
「…………」
その時。
敵兵達が。
左右へ。
分かれた。
「?」
道を。
開けるように。
その間を。
一人の。
女が。
歩いてくる。
「…………!」
レテの。
表情が。
僅かに。
強張る。
そして。
反対側。
別の廊下。
――カツ。
「…………?」
パイルが。
振り向く。
――カツ。
――カツ。
ゆっくりと。
近づいてくる。
足音。
「……二人?」
「そのようですね」
レテが。
女から。
目を離さない。
パイルも。
反対側を。
睨む。
やがて。
姿を。
現した。
一人の。
男。
年齢は。
三十代ほど。
鍛え上げられた。
身体。
腰。
左右に。
二本の。
曲刀。
だが。
何より。
目につくのは。
その脚。
太い。
異様なほど。
太い。
太腿。
ふくらはぎ。
長い年月。
走り続け。
鍛え上げられた。
脚。
「…………」
男が。
治療所を見る。
レテを見る。
そして。
パイルを見る。
「へぇ」
口元が。
吊り上がる。
「ガイストの奴らか」
「…………」
パイルが。
男を見る。
「君は?」
「あ?」
男が。
自分を。
指差す。
「俺か?」
腰。
曲刀。
一本。
抜く。
「リアス」
もう一本。
「リアス・カプリス」
「カプリス……」
「知ってんのか?」
「名前だけね」
「そりゃ結構」
二本の。
曲刀を。
軽く。
回す。
「俺も」
笑う。
「ガイストの奴とは、一度やってみたかったんだ」
「…………」
パイルが。
小さく。
ため息。
「できれば」
《風穴》を。
構える。
「僕はやりたくなかったんだけどなぁ」
「ははっ!」
リアスの。
笑みが。
深くなる。
「そう言うなよ」
――ドン!!
「!」
床。
砕ける。
一瞬。
リアスの。
姿が。
消えた。
「せっかくの――」
「っ!」
曲刀。
パイルの。
眼前。
「戦だろうが!」
――ガキィン!!
《風穴》と。
曲刀。
激突。
「ぐっ……!」
「はははっ!」
押される。
重い。
「いいねぇ!」
「…………っ」
パイルが。
歯を。
食いしばる。
「パイルさん!」
レテが。
振り向く。
「よそ見は」
「!」
声。
目の前。
レテが。
咄嗟に。
《水凪》を。
振る。
――キィン!!
「…………!」
水の刀身が。
何かを。
受け止める。
女。
すでに。
目の前。
「…………」
レテが。
距離を。
取る。
「あなたは……」
女が。
静かに。
レテを見る。
「リシェル・ヴィルネ」
「…………」
「ヴィルネ族」
一歩。
前へ。
「族長です」
「族長……」
レテの。
傍ら。
ディーネが。
強く。
揺れる。
「…………?」
何か。
おかしい。
何かを。
訴えている。
でも。
何を。
「…………」
分からない。
その瞬間。
――ドゴォン!!
「!」
横。
パイルが。
壁へ。
叩きつけられる。
「パイルさん!」
「よそ見すんなよ!」
リアス。
踏み込む。
「君もね!」
――ガシュン!!
「おっ!?」
《風穴》。
杭。
射出。
リアスが。
身を。
捻る。
紙一重。
頬。
掠める。
「…………」
一筋。
血。
「…………」
リアスが。
頬へ。
触れる。
指先。
赤い。
「…………へぇ」
口元。
ゆっくり。
吊り上がる。
「いいじゃねぇか」
「…………」
パイルが。
《風穴》を。
構え直す。
「参ったなぁ……」
「…………」
レテも。
リシェルへ。
向き直る。
《水凪》。
水の刀身が。
静かに。
揺れる。
二つの。
戦い。
負傷者達を。
守るため。
治療所の前で。
同時に。
始まった。




