炎と毒
「ししし」
セトが。
笑う。
「俺が相手だ……ですか」
《毒吻》を。
ゆっくりと。
持ち上げる。
「その割には」
バルガス隊長の。
両手を見る。
「霊器すら出さないのですねぇ?」
「必要になりゃ出すさ」
「ししし」
「随分と余裕ですねぇ」
――パシンッ!!
「!」
鞭が。
走る。
顔。
バルガス隊長が。
首を。
傾ける。
毒針が。
頬の横を。
通り過ぎる。
「ふん!」
一歩。
踏み込む。
拳。
「おっと」
セトが。
身体を。
反らす。
空振り。
――パシンッ!!
「ちっ!」
戻ってきた。
《毒吻》。
バルガス隊長が。
身を沈める。
頭上を。
毒針が。
走り抜けた。
「隊長!」
今なら。
俺も。
「俺も行きます!」
《砕》を。
握り。
踏み出す。
「来んな!」
「!?」
「アルト!」
バルガス隊長が。
セトから。
目を離さないまま。
叫ぶ。
「もっと下がれ!」
「でも!」
「お前が近くにいたら――」
――パシンッ!!
「!」
迫る。
毒針。
バルガス隊長が。
右手を。
突き出す。
「――《火衝》!」
――ボォン!!
掌の前。
炎が。
炸裂する。
《毒吻》が。
弾かれた。
「術が撃てねぇだろうが!」
「…………!」
「分かったら下がれ!」
「……はい!」
後ろへ。
走る。
「もっとだ!」
「はい!」
距離を。
取る。
「その辺でいい!」
「…………」
バルガス隊長が。
俺を。
一瞬だけ。
確認する。
「よし」
「おやおや」
セトが。
《毒吻》を。
引き戻す。
「随分と気を遣うのですねぇ」
「部下を焼く趣味はねぇんでな」
「ししし」
「では――」
セトの。
腕が。
動く。
「もう一度」
――パシンッ!!
「!」
鞭。
正面。
「遅ぇ!」
バルガス隊長の。
足元。
炎が。
集まる。
「――《爆歩》!」
――ドン!!
「!」
一瞬。
姿が。
消えた。
「おや?」
セトの。
横。
「おらぁ!!」
「!」
拳。
セトが。
咄嗟に。
腕を上げる。
――ドゴッ!!
「ぐっ……!」
身体が。
横へ。
吹き飛ぶ。
だけど。
倒れない。
足を。
床へ。
滑らせ。
止まる。
「…………」
セトが。
殴られた腕を。
見る。
「ししし」
笑う。
「なるほど」
「…………」
「随分と速い」
「まだまだだ!」
再び。
足元。
炎。
「――《爆歩》!」
――ドン!!
「!」
今度は。
正面。
拳を。
振りかぶる。
「同じ手を」
《毒吻》が。
迎え撃つ。
「二度も食らうと――」
「――《火衝》!」
「!?」
拳じゃない。
掌。
――ボォン!!
炎の。
衝撃。
「ぐっ!」
《毒吻》ごと。
セトを。
押し返す。
「…………」
バルガス隊長は。
追わない。
右腕を。
ゆっくりと。
引く。
「…………?」
掌。
炎が。
灯る。
だけど。
さっきまでとは。
違う。
炎が。
広がらない。
一点へ。
少しずつ。
集まっていく。
「…………」
セトが。
目を。
細める。
「何か溜めていますねぇ?」
「…………」
炎が。
細く。
細く。
圧縮されていく。
「ししし」
――パシンッ!!
《毒吻》。
狙いは。
右腕。
「させませんよ?」
「ちっ!」
バルガス隊長が。
溜めを。
解く。
身体を。
捻る。
毒針が。
通り過ぎる。
「…………」
「ししし」
セトが。
笑う。
「随分と時間のかかる術ですねぇ」
「…………」
「それでは」
《毒吻》を。
構え直す。
「撃たせるわけにはいきませんねぇ」
「……そうかよ」
バルガス隊長が。
口元を。
吊り上げる。
「なら」
足元。
再び。
炎が。
灯る。
「無理矢理作るだけだ」
「…………?」
「撃つ隙をな」
――ドン!!
「――《爆歩》!」
「!」
真正面。
セトへ。
突っ込む。
――パシンッ!!
鞭。
バルガス隊長が。
身を。
捻る。
躱す。
「おらぁ!」
拳。
「ししし!」
セトが。
後ろへ。
下がる。
「――《火衝》!」
――ボォン!!
「!」
炎が。
炸裂する。
セトが。
さらに。
押し込まれる。
「…………」
バルガス隊長の。
右手。
再び。
炎。
「!」
「ししし」
セトが。
鞭を。
振るう。
でも。
「――《爆歩》!」
――ドン!!
「!」
横。
消える。
鞭が。
空を切る。
「そこか!」
バルガス隊長が。
足を。
踏みしめる。
右腕を。
引く。
「…………!」
今度は。
炎が。
消えない。
細く。
鋭く。
ただ一点へ。
集まり続ける。
「ちっ……!」
セトが。
初めて。
舌打ちした。
――パシンッ!!
《毒吻》が。
走る。
「遅ぇ!!」
バルガス隊長が。
右手を。
突き出す。
「――《灼火》!!」
――ズドン!!
「…………!!」
一本の。
細い。
炎。
それが。
真っ直ぐ。
セトへ。
放たれる。
「っ!」
セトが。
身体を。
捻る。
――ジュッ!!
「…………!」
脇腹。
僅かに。
掠める。
そして。
そのまま。
後方。
壁へ。
突き刺さった。
――ドシュッ!!
「…………」
小さな。
穴。
だけど。
深い。
その奥が。
真っ赤に。
焼けている。
「…………」
セトが。
ゆっくり。
自分の脇腹を見る。
服が。
焼け。
その下。
皮膚にも。
赤い線が。
走っている。
「ししし……」
笑う。
「これは……」
眼鏡を。
押し上げる。
「まともに受けるのは、少々遠慮したいですねぇ」
「ダッハハハハ!」
バルガス隊長が。
拳を。
構え直す。
「なら次も必死に避けろ!」
「ししし」
《毒吻》が。
ゆらり。
持ち上がる。
「えぇ」
「そうさせていただきますよ」
「…………」
拳。
鞭。
炎。
毒。
再び。
二人が。
向かい合う。
その後ろ。
「…………」
セブランさんは。
ナーラさんの。
傍から。
一度も。
動いていない。
ただ。
治療を。
続けていた。




