毒吻
「…………」
スコルネ族長。
この人が。
「随分と……若いな」
ロイドさんが。
呟く。
「ししし」
セトが。
小さく。
笑う。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「褒めちゃいねぇよ」
「おや、これは失礼」
「…………」
セトが。
ゆっくりと。
鞭を。
持ち上げる。
「さて」
「!」
バルガス隊長が。
一歩。
前へ出る。
「もう少し昔話でもしたいところですが……」
セトの。
視線が。
俺達を。
順番に。
なぞっていく。
「今は少々、取り込み中でしてねぇ」
「…………」
「大人しく帰っていただけませんか?」
「そりゃ無理な相談だな」
バルガス隊長が。
答える。
「ここまで来て、はいそうですかって帰れるかよ」
「でしょうねぇ」
「…………」
「では」
セトが。
笑う。
「仕方ありません」
――パシンッ!!
「!」
鞭が。
消えた。
「右だ!」
ロイドさんが。
剣を。
抜く。
――ギィン!!
「ぐっ!」
火花が。
散る。
剣に。
細い鞭が。
巻き付いていた。
「ししし」
「……っ!」
「よく見えましたねぇ」
「舐めんな!」
ロイドさんが。
剣を。
強く。
引く。
「ログ!」
「はい!」
ログが。
右手を。
前へ出す。
茶色い光が。
一際。
強く輝く。
「…………!」
光が。
形を。
成していく。
長い。
一本の柄。
その先。
巨大な。
槌頭。
以前よりも。
一回り大きな。
その槌頭を。
茶色い紋様が。
駆け巡る。
打撃面には。
牛の角を。
思わせる。
力強い意匠。
柄には。
土色の霊素が。
淡く。
流れ続けている。
「…………」
ログが。
その柄を。
強く。
握る。
霊器。
《崩槌》。
「おらぁ!」
巨大な。
大槌を。
振り上げる。
床を。
蹴る。
「…………」
セトは。
動かない。
「ぶっ飛べ!」
《崩槌》が。
振り下ろされる。
「ししし」
その。
瞬間。
「遅いですねぇ」
「!?」
消えた。
「ログ!」
「っ!」
声。
背後。
「…………!」
セトが。
いる。
「いつ――」
「まずは」
鞭が。
しなる。
先端。
毒針が。
ログへ。
「一人」
「させるかぁ!!」
――ドォン!!
「!」
セトの。
身体が。
後ろへ。
跳ぶ。
「…………!」
ログの。
前。
バルガス隊長が。
立っていた。
「下がれ、ログ」
「でも!」
「下がれ」
「…………っ」
「はい」
ログが。
一歩。
下がる。
「…………」
セトが。
頬へ。
指を。
当てる。
「おや」
指先。
僅かに。
赤い。
「…………」
「ししし」
セトが。
バルガス隊長を見る。
「なるほど」
「…………」
「貴方は……少々違うようですねぇ」
「…………」
「バルガス隊長」
ロイドさんが。
その横へ。
並ぶ。
「こいつ……」
「あぁ」
「…………」
バルガス隊長の。
顔から。
いつもの。
豪快さが。
消えている。
「全員、気ぃ抜くな」
「…………!」
「こいつの鞭」
先端。
揺れる。
細い。
毒針。
「掠っただけでも終わると思え」
「…………」
ナーラ姫の。
傍。
セブランさんが。
口を開く。
「その通りだ」
「セブランさん?」
「《毒吻》」
「…………?」
「あいつの霊器だ」
「毒吻……」
「ししし」
セトが。
嬉しそうに。
笑う。
「覚えていてくれたんですねぇ」
「忘れるか」
「それは嬉しいですねぇ」
ゆらり。
鞭の。
先端が。
揺れる。
「では――」
眼鏡の。
奥。
細められた。
瞳が。
俺達を。
見渡す。
「次は……」
笑みが。
深くなる。
「どなたに口づけしましょうか?」




