反乱の目的
◇ ◇ ◇
――ドォォォォン!!
「…………!」
轟音。
建物が。
大きく揺れる。
吹き飛んだ壁から。
土煙が。
舞い上がった。
「…………」
その向こう。
ガオンの姿が。
遠ざかっていく。
腕には。
ジル。
肩には。
侍女。
「…………」
リシェルは。
《射恋》を。
握り締める。
追わなければ。
あの男は。
裏切り者。
王家を。
陛下を。
そして。
ルミナスを。
裏切った。
「…………」
ならば。
ここで。
逃がすわけには――
「…………?」
足が。
動かない。
「……なぜ」
脳裏に。
先ほどの言葉が。
蘇る。
『俺は、この国を裏切っていない』
「…………」
嘘だ。
ガオンは。
王宮を襲った。
陛下を裏切り。
この国を。
奪おうとした。
だから。
私は。
戦った。
「…………」
間違っていない。
そのはず。
『俺がルミナスを裏切ることだけは――』
あの時。
ガオンは。
真っ直ぐ。
こちらを見ていた。
『絶対にない』
「…………」
嘘を。
ついているようには。
見えなかった。
「…………っ」
何を。
考えているの。
私は。
ガオンは。
敵。
裏切り者。
それは。
分かっている。
「…………」
なのに。
なぜ。
こんなにも。
引っ掛かる。
「……ガオン」
崩れた。
壁の向こう。
もう。
その姿は。
見えない。
「…………」
追うべき。
今なら。
まだ。
間に合う。
「…………」
それでも。
足が。
動かない。
「…………なぜ」
胸元へ。
手を当てる。
ガオンは。
裏切り者。
そのはず。
なのに。
あの男は。
ジルを。
守っていた。
自分の身体を。
盾にしてまで。
必死に。
「…………」
妹だから。
それだけ。
国を裏切ったこととは。
何の関係もない。
「…………」
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥に。
小さな。
棘のようなものが。
残っている。
「…………」
リシェルは。
自分の手を見る。
《射恋》。
この手で。
何度も。
ガオンを。
狙った。
「…………」
もし。
あの言葉が。
本当なら。
「…………!」
そこまで。
考えて。
首を振る。
「違う……」
何を。
迷っているの。
自分が。
見たものを。
疑うの?
「…………」
乙女座の加護。
記憶。
私は。
忘れない。
見たものも。
聞いたものも。
鮮明に。
覚えている。
「…………」
だから。
間違えるはずがない。
ガオンは。
裏切った。
「…………」
それなのに。
なぜ。
あの目が。
頭から。
離れない。
◇ ◇ ◇
「…………」
カルキス族。
ピシエル族。
タウルス族。
ヴィルネ族。
カプリス族。
そして。
スコルネ族。
「…………」
六つ。
ルミナスにいる。
十二の部族。
その。
半分。
「……反乱」
口にしてみても。
なんだか。
しっくりこない。
「…………」
六つの部族が。
一斉に。
ガオン達へ。
反乱。
「……なんか変だ」
「?」
隣にいた。
レテが。
こっちを見る。
「どうしたんですか? アルトくん」
「いや……」
頭を。
掻く。
「上手く言えないんだけど」
「はい」
「六つの部族が一斉に反乱したんだよね?」
「……そうみたいですね」
「…………」
六つ。
半分。
「それにさ」
「はい?」
「半分がガオン達に反乱したんだったら……」
指を。
折る。
一つ。
二つ。
頭の中で。
数える。
「後の五部族は?」
「…………」
レテが。
目を瞬く。
「レオニス族を除いた、残りの部族ですか?」
「うん」
「…………」
レテが。
少し。
考える。
「確かに……今のところ、その五部族がどうしているのかは分かりませんね」
「だよね」
「…………」
反乱。
国を。
ひっくり返す。
王族を。
倒す。
「…………」
でも。
なんだろう。
それだけなら。
何か。
変な気がする。
「なんかさ……」
「はい」
「これ、本当に反乱することが目的なのかな」
「…………」
レテの。
表情が。
変わる。
「どういうことですか?」
「分かんない」
「…………」
「俺も上手く説明できないんだけど……」
六つの部族。
残りの。
五つの部族。
それに。
ガオン達。
「反乱したいだけなら……なんか、もっと別のやり方がありそうっていうか」
「…………」
「これだけ大きなことになってるのに、何がしたいのか全然見えてこないんだよ」
「…………」
レテが。
黙り込む。
「だから……」
もう一度。
六つの部族を。
頭に浮かべる。
「反乱が目的じゃなくて……」
「…………」
「別に何かあるんじゃないかなって」
「別の……目的」
「うん」
「…………」
でも。
それが。
何なのか。
俺には。
まだ。
分からない。
「…………」
「おい」
「!」
ロイドさんの。
声。
「いつまで突っ立ってんだ」
「ロイドさん」
「考えるのは勝手だがな」
辺りを。
見回す。
「ここが安全だって決まったわけじゃねぇぞ」
「……そうだった」
「アルトくん。行きましょう」
「うん」
「ったく……」
ロイドさんが。
頭を掻く。
そのまま。
歩き出す。
「…………」
俺も。
後を追おうとして。
ふと。
振り返る。
「…………」
セブランさん。
負傷者の。
治療を続けている。
その横顔は。
真剣で。
さっきまでと。
何も。
変わらない。
「アルトくん?」
「あ、うん!」
レテに。
呼ばれ。
前を向く。
「…………」
反乱。
その言葉だけでは。
どうしても。
何かが。
足りない。
そんな。
引っ掛かりだけが。
頭の中に。
残っていた。




